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この映画語らせて!ズバッと評論!!『BHEED』新型コロナによって職を奪われた移民労働者の大移動によるパニックをB&Wで描く!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『BHEED』新型コロナによって職を奪われた移民労働者の大移動によるパニックをB&Wで描く!!

作品情報

2020年、新型コロナウイルスのロックダウンによって、職を失った移民労働者たちが故郷に戻ろうとする大移動が始まったが、世間も政府もウイルスの実態を把握しておらず、間違った情報による不安や恐怖がインド全体を支配していた中で、その騒動を収めようと警察も動きだすが、前代未聞の状況下で対応をどうしていいかわからず、あたふたしているうちに人々の不満は頂点に達してしまい……。

『BHEED』レビュー

2010年代前半までは、シャー・ルク・カーン主演映画『ラ・ワン』やサンジャイ・ダット主演の『Dus』のように、娯楽作品を手掛けてきたアヌバウ・シンハーではあるが、娯楽作品を手掛けていた時期も有名な監督ではあったものの、作家性の面ではあまり評価されてこなかった監督だ。

しかし近年は社会問題を扱った作品が多くなっていることから、世間からも社会派な監督として評価されることが多くなったことから、一貫して社会問題しか扱わなくなっており、すっかり社会派な監督というイメージが定着している。

例えばタープシー・パンヌ主演の『Thappad』は、インドでも巻き起こった「#Me Too」運動を題材としたものになっているし、同じくタープシー主演の『Mulk』では、特に911テロ以降、イスラム教=テロリストと紐づけされてしまうことにメスを入れた作品だ。

社会派に目覚めてからのアヌバウの作品は日本語では観ることができないが、英語字幕であればNetflixやZEE5などの日本からアクセス可能な配信サービスでもいくつか観ることは可能だ。

昔というよりは、近年のホットトピックを摘まんでくる社会派監督アヌバウが新型コロナウイルスを扱うというのは、遅かれ早かれ必然だったといえるかもしれない。

日本やアメリカでもコロナ過を題材とした映画やドラマが多く制作されるようになっているが、インドでもそれは同じである。

新型コロナウイルスを扱った映画やドラマはZEE5映画の『インディア・ロックダウン』やマラヤーラム語映画の『ロックダウン』、その名もズバリなテルグ映画『Coronavirus』などがある。直接的ではなくメタファーとして描いたものも挙げればかなりの数だ。

しかし、アヌバウが注目したのは、新型コロナウイルスであっても、それによって職を奪われ都心部から地方に移動を試みた移民労働者に焦点を当てているところだ。

そしてもうひとつ重要な点は、今作は現代劇であるというのに、ブラック&ホワイトで描かれていることだ。

単にドラマチックにみせる演出だと誤解している人も多いようだが、ブラック&ホワイトで描いた理由は、1947年の印パ独立時の状況と2020年の新型コロナの状況で撮られたいくつかの写真の構図が偶然にも酷似していたからだ。

つまり今作で描かれている移民問題や労働者問題などに関してのインド政府の対応が70年前とあまり変わっていないという皮肉にもなっていながらも、当時とは違う一面や人々の意識も変化しているということも踏まえながら、マイナスからプラスにグラデーション的に描こうとしているのだろう。

今作で描かれている内容は、いつくかの実話を元に構成されている。新型コロナウイルスという未知の存在がもたらした直接的な健康被害だけではなく、真実と誤報が入り混じる情報によって、人々が不安や恐怖、絶望、怒り、悲しみなどの感情が制御できない人々による混乱をどう収めるべきなのか。政府や警察もそれがわからないという、どこの国も似たような状況だったわけだ。

それを主人公で警官のスーリヤ・クマールの視点と同時に、インド移民労働者の複数の視点から描いてみせ、パニック映画ではなくスリラーに仕立て上げたのは独自性の強い作品といえるだろう。

全体的にドキュメンタリータッチに仕上げていることもあって、淡々と物語が進むため、映画的な盛り上がりはそれほどないが、内容が内容だけにこういった言い方が適切なのかはわからないが、フォトジェニックなシーンは多くあったりする。

またキャストのことで言うと、『ザ・ホワイトタイガー』や『愛しのモニカ』などNetflix映画でもお馴染みで、演技派として知られるラージクマール・ラーオが主人公のスーリヤを演じていることも今作を重圧なものに仕上げている要因のひとつだ。

このスーリヤは、警察という国家権力者でありながら、実は低いカーストということを隠しているキャラクターという設定である。

スーリヤの心の揺らぎというのがキーポイントとなっており、人間はみな平等であるという着地点へ向かわせようとするのだが、決してセリフで全てを説明してくれるようなキャラクターではないことからも、ラージクマールの演技がなければ成り立たないキャラクターといえるだろう。

点数 82

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