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この映画語らせて!ズバッと評論!!『ジャックフルーツが行方不明』カースト、ジェンダー、政治、警察組織を皮肉ったブラックコメディ!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『ジャックフルーツが行方不明』カースト、ジェンダー、政治、警察組織を皮肉ったブラックコメディ!!

作品情報

ある日、政治家邸宅の木になっていた2つのジャックフルーツが盗まれ、警部補のマヒマは仲間たちと事件を調査することになる。容疑者を調べていくうちにある人物が捜査上に浮上してくるが、その容疑者は別の事件の被害者である可能性も浮上してくる。政治家との忖度があって、他の犯罪よりも最優先事項とされているジャックフルーツの捜索の影で見落としてしまった犯罪があるのではないかと心配になるマヒマは、仲間たちとある計画を立てるのだが……。

『ジャックフルーツが行方不明』レビュー

今作の冒頭では、結婚詐欺師を捕まえるのに警官5人がかりでも手間どるというゆるいコメディ臭を漂わせていて、インドのコメディではよくありがちな中国コメディ映画の悪いところを吸収したようなコテコテのコメディ映画に思わせている。

しかし、今作はそんなゆるいコメディを目指したものではなく、実は犯人を追い詰めた先の壁に書かれている「カースト差別を教育で撲滅しよう」という文字こそが、今作の主題であるのだ。

アーリヤー・バットタープシー・パンヌなどもそうだが、サニヤー・マルホートラも『おかしな子』や『わたしたちの愛の距離』といった作品でインドの女性の在り方、現在地を体現してきた。この3人が主演するNetflix映画は基本的にジェンダー問題や格差差別を扱ったものと思った方がいい。というよりNetflixとしては、そういった社会問題を扱う際に間違いないキャスティングと思っているのだろう。

カースト制度は撤廃されたとしても、アメリカにおける黒人差別のように、駄目なものだと理解はしていても、親から引き継いで潜在的に根付いてしまっている差別意識というのは簡単にぬぐい切れず、人々の心の中にまだ根深く残っていることはNetflixでも『スケーターガール』など他の作品などでも扱ってきているし、2000年代に入ってからは『家族の四季 -愛すれど遠く離れて-』のように身分の違う恋愛映画を通してずっと描いてきている。

また男尊女卑の文化も同じである。インドでも若い世代は早くから海外文化に触れてきていることもあって、価値観がひと昔前とは全く異なっているし、SNSなどを通して自分の意見を主張できる時代になっている。

それでもアミターブ・バッチャン主演の法廷サスペンス『ピンク』やアイシュワリヤー・レクシュミー主演の『アムー~負けない心~』、あるいは『グレート・インディアン・キッチン』などで描かれているように、カースト同様に潜在的な女性蔑視、つまりミソジニーはたびたび取り上げられてきているし、特にNetflixはそういったインドが抱える社会問題を多く扱ってきている。

今作と同じくサニヤー主演の『おかしな子』は、現代的価値観をもつ女性がインドの風習と向き合うことで、概念から脱しようとするものとなっているし、『わたしたちの愛の距離』では、お見合い結婚(間違ってだが)したふたりが、互いに寄り添い尊重し合いながら関係を築いていくものとなっている。

今作の主題はカーストではあるが、ミソジニーも描かれている。というかひとりの人間として主張できる時代にカーストやミソジニーなど時代錯誤だということを描いているのだ。

マヒマのフルネームはマヒマ・バソール。その名の通り不可触民とされるバソール(竹細工職人)出身。作中でも名前をスラングのように上司から呼ばれているシーンがあるし、女性が出世していることに不満をもっている部分もあるように感じられる。

マヒマは警部補だが、巡査のソウラブと恋愛関係にあり、結婚も視野にあるといった関係性。

一方、ソウラブの親は、ふたりの関係を良く思っておらず、マヒマをバソールの女と呼ぶほどカーストの違いを意識している保守派であることがわかる。

ソウラブは、カースト上では上ではあるが、職場の立場としては上下が逆。何なら男女の力関係も逆といえるような関係性になっていて、このふたりの関係性自体が現代の変化する価値観を象徴しているといえるだろう。

そんな中で政治家の邸宅でジャックフルーツが2個盗まれているという通報を受けてマヒマたちが捜査にあたるが、これは警察組織と政治の癒着がわかる事件となっている。

マヒマたちは他の事件捜査が滞っているのにも関わらず、ふたつで360ルピー程度のジャックフルーツの捜索を最優先にさせられてしまっている現状にある中で、ジャックフルーツ盗難の容疑者として浮上した庭師の娘が行方不明であることが判明する。

マヒマはわざとその娘を容疑者とすることで、行方不明事件を追うことにシフトしていくことがコミカルに描かれているものの、これは誘拐による人身売買、レイプ、殺人といった凶悪犯罪が警察と政治の癒着によって見逃されてしまっているという、警察組織の在り方への皮肉にもなっているのだ。

監督・脚本を務めるヤショワルダン・ミシュラは短編監督として知られているが、今作が長編監督デビュー作となるが、初めての長編作品からいきなり毒を盛ったものとなっているだけに、今後の活躍が期待できる監督のひとりとなった。

点数 80

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