ラジオ番組「バフィーの映画な話」Spotifyなどで毎週配信中!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『イニシェリン島の精霊』田舎も都会も争いの構造自体は紐解けば一緒なのかもしれない

この映画語らせて!ズバッと評論!!『イニシェリン島の精霊』田舎も都会も争いの構造自体は紐解けば一緒なのかもしれない

作品情報

本作の舞台は本土が内戦に揺れる1923年、アイルランドの孤島、イニシェリン島。島民全員が顔見知りのこの平和な小さい島で、気のいい男パードリックは長年友情を育んできたはずだった友人コルムに突然の絶縁を告げられる。急な出来事に動揺を隠せないパードリックだったが、理由はわからない。賢明な妹シボーンや風変わりな隣人ドミニクの力も借りて事態を好転させようとするが、ついにコルムから「これ以上自分に関わると自分の指を切り落とす」と恐ろしい宣言をされる。美しい海と空に囲まれた穏やかなこの島に、死を知らせると言い伝えられる“精霊”が降り立つ。その先には誰もが想像しえなかった衝撃的な結末が待っていた…。

『イニシェリン島の精霊』レビュー

ゴールデングローブ賞含め多くの映画賞でノミネート、受賞をしている本作。第95回アカデミー賞においても、注目が集まっている。

1920年代のアイルランドの孤島を舞台に、本土は内戦状態だけど、田舎は平和なはず……と思っていたら、平和すぎるからこそ起こり得る争いを描いているのだが、俯瞰的にみれば、そのいざこざの内容は、本当に些細なことがきっかけのバカみたいなことだったりする。

しかしどうだろうか、内戦も戦争も、もともとは些細なことがきっかけで事が大きくなってしまうことが多かったりもする。本土だろうが田舎だろうが、規模の大小が異なるだけで、争いの構造自体はそこまで変わりはないのかもしれない。

生粋の田舎っこのパードックと、なんだか芸術家ぶりはじめたコルムのいざこざを描いているのだが、その理由というのが明確には描かれていない。様々な理由も考えられるが、イニシェリン島という孤立した島の環境を考えると、何となく見えてくるものがあるはずだ。

コルムは初老の男性であるが、独身で何者にもなりきれてないという想いが強いように感じられる。そこに歳をとったという焦りが、急に芸術家になりたいと思わせたのだろう。しかし、田舎の暮らし、変わらない日常に疑問すらもたない、バカ純粋なパードックの存在そのものが雑念そのものになるというのも理解できる。

タイトルのイニシェリン島の精霊とは、バンシー、つまりアイルラドに伝わる死を告げる妖精のことである。ストレートに死を連想させてもいるが、今作においては、島の中で生き続ける将来の不安や孤独感、絶望感のメタファーとしても大きく機能しているように感じられるのだ。

点数 80

この映画語らせて!ズバッと評論!!カテゴリの最新記事