作品情報
第二次大戦後の1945年。そこは零下40度の厳冬の世界・シベリア…。わずかな食料での過酷な労働が続く日々。死に逝く者が続出する地獄の強制収容所(ラーゲリ)に、その男・山本幡男は居た。「生きる希望を捨ててはいけません。帰国(ダモイ)の日は必ずやって来ます。」絶望する捕虜たちに彼は訴え続けた……。身に覚えのないスパイ容疑でラーゲリに収容された山本は、日本にいる妻・モジミや4人の子どもと一緒に過ごす日々が訪れることを信じ、耐えた。劣悪な環境下では、日本人同士の争いも絶えなかった……。
『ラーゲリより愛を込めて』レビュー
日本映画が戦争映画を撮るとどうしても人間ドラマ中心になるのは、戦闘シーンにかける予算がないという問題もあるが、それはそれである種の国の「色」として、もはや受け入れるしかないと諦めつつある。『レジェンド&バタフライ』を観ても思ったが、お家芸である時代劇ですらそうなのだから仕方ない。
ということで、戦闘シーンはほとんどなく、戦時下であることや時代背景が伝わりにく部分は多いだろう。冒頭に少しあるシーンもセット感が満載だ。
しかし、極限の状況、絶望しかない状況でも、家族との再会を夢見て誰よりも生きることを諦めなかった男・山本の姿が周りを動かし、生きる希望を与えていく重圧な物語となっている。
もしかしたら単に構成の問題点かもしれないが、ラーゲリにいる人々の視点ばかりで、極端に日本に残された家族たちの姿は描かれないことから、家族の安否すらわからない状況の中の不安感というのが観客の視点とリンクしていて、後半で唯一の連絡手段として手紙を出すことが許された際の安堵感、逆に絶望感を体感させられるという点では逆に良かったのではないだろうか。
周りに希望を与え続け、誰よりも生きることに貪欲だった山本を襲ったのは、病だったという皮肉。妻や子どもを遺したまま逝かなければならないと悟った山本の無念や悔しさ、悲しみがひしひしと伝わるのは、ただただ辛い。
そんな山本のために、限られた環境の中で何ができるかと立ち上がる男たちの姿は涙なしには観ることができないものとなっている
ところが、問題点がないというわけでは決してない。泣かせることを前提としている作品なのだから「お涙頂戴演出」は想定内だが、やり方がくどい。ここで終わっておけばよかったという部分を通り越して、感動サドンデスに突入するのが難点。
ラストである人物が結婚式のスピーチをするシーンがあるが、このシーンは全くもって不必要。その人物は、フジテレビのドラマ版の主演を務めた人物というとわかるもしれない。ドラマ版へのリスペクトもしくはお遊びなのかもしれないが、とって付けた感が凄くて、全体的な作品のバランスを最後の最後で崩してしまっている。
原作もそうだったとしたら、そこは削るべきだった。
点数 80
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