作品情報
「宗教はアヘン」と言ったのはマルクスだが、コメディ、社会派、ディストピアSFなど様々なジャンルの5つの短編から構成された本作は、インドの宗教事情を多角的に浮上させようと試みている。
『アヘン』レビュー
昔から色濃くあった中で、今再び問題が明るみになってきたヒンドゥー至上主義問題。多言語、多宗教国家であるインドの最大の問題といえるかもしれない。
そんな中でも、宗教の違いは個性であって、人間の本質は同じというメッセージがこめられた作品は『マイネーム・イズ・ハーン』や『スーリヤヴァンシー』などがあるが、今作はシリアスなものとコミカルなものが混在した短編集だ。
冒頭から不穏な空気の中で、あえて何の宗教同士なのかを提示せずに、視点を変えると加害者でも、被害者でもあるという、まさにヒンドゥー至上主義問題やインドとパキスタンの緊張関係を感じさせるような物語となっていて、その次のエピソードでは、本を被った人間が被っていない人間を襲うディストピアのようなものとなっている。おそらくこれは、キリスト教でいえば聖書を通してしか物事を見ることができない、同じでないものは敵とみなすといった意識のメタファーであるのだろう。
そんなシリアスなトーンで全編が進んでいくのかと思えば、キリスト教徒のケチな男が、父の葬式の費用を安くするためにヒンドゥー教徒になろうとする物語や、近代化するインドの中心部ではUberのようなデリバリーも進出してきている中で、ジャイナ教徒の女性が、触れてもいけない、見てもいけない豚肉の料理を運ぶことになってしまうもの。
そして最後に、ヒンドゥー教の友達の親が亡くなったことで、葬儀に必要な雄牛の糞を探しもとめるというハートフルなもので締めくくられている。
宗教感の問題をシリアスな流れから、コミカルにものとしてグラデーション的に描くことで、最終的には、人間は人間なんだと感じさせる見事な構成となっている。
インドという国が、ヒンドゥー、キリスト、イスラム、シーク、ジャイナなど、多宗教国家ということを理解しきれていない日本にとって、一般劇場で公開できる作品かは微妙なところではあるが、宗教に関わらず、人間の考え方の違いを尊重することで、世界は平和になる。そんなことを思わせてくれる作品だ。
点数 80
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