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この映画語らせて!ズバッと評論!!(先取り版)『アフター・ヤン』多様性とテクノロジーが行き着いた先にある日常の日々

この映画語らせて!ズバッと評論!!(先取り版)『アフター・ヤン』多様性とテクノロジーが行き着いた先にある日常の日々

作品情報

“テクノ”と呼ばれる人型ロボットが、一般家庭にまで普及した未来世界。茶葉の販売店を営むジェイク、妻のカイラ、中国系の幼い養女ミカは、慎ましくも幸せな日々を送っていた。しかしロボットのヤンが突然の故障で動かなくなり、ヤンを本当の兄のように慕っていたミカはふさぎ込んでしまう。修理の手段を模索するジェイクは、ヤンの体内に一日ごとに数秒間の動画を撮影できる特殊なパーツが組み込まれていることを発見。そのメモリバンクに保存された映像には、ジェイクの家族に向けられたヤンの温かなまなざし、そしてヤンがめぐり合った素性不明の若い女性の姿が記録されていた……。

『アフター・ヤン』レビュー

© 2021 Future Autumn LLC. All rights reserved.

近未来を描いたものではあるが、SF映画ではなく、人間ドラマとしての側面の方が強い作品だ。多様性とテクノロジーの行き着く先にある日常と、その課題点を描いた作品でもある。

AIロボットが一般的となり、日常で生活をしている。しかし、ロボットは機械だという意識はまだまだある。そんな未来だ。

ある日、主人公ジェイクの家族と共に生活するAIロボットのヤンが故障したことから物語は展開される。

機械が故障したように、修理に出そうとするジェイク。この時点では家族ではなく、あくまでロボットとして認識している。

そんなヤンがもう修理不可能。しかし記憶だけは再生することが可能となったことから、記憶の再生をするジェイク。

機械であれば修理できないなら廃棄して新しいものを買い替えればいいのだが、AIロボットの場合も果たしてそうだろうか……。

一緒に過ごした日常は家族同様であり、AIもまた人間を学ぶことで、寄り添おうとしていたことが、記憶の再生からわかってくる。

「思いやり」や「尊重」という人間にしかないと思われているような感情をヤンが持ち始めていたからだ。

そうなってくると、廃棄ではなく、「死」と「別れ」を意味することになってくるわけだ。つまり人間がAIは機械的なものだという固定概念が崩れ去り、人間に近しい存在として受け入れる気持ちの変化を繊細に描いているのだ。

またもうひとつ描かれるのが、多様性が進んだからこそ起きうる文化の継承問題である。

ジェイク、カイラ、ミカの家族は、それぞれが人種の違う家族。ルーツや文化も全く異なる。正に多様性を体現したような家族である。

ジェイクはお茶のショップを経営しているが、あまり知識がない。海外で寿司屋やラーメン店を出してヘンテコなものを提供している、似非日本通のような人々に近いのだろう。だからこそ逆に無から文化を学ぶことの難しさを痛感しているのかもしれない。

新たな時代のひとつの生き方、家族のかたちとして、ルーツや文化を無視して進むのも別に悪くはないだろう。

アジア系だろうと、アフリカ系だろうと、多様性となった世界においては、あまり重要ではなく個人が尊重される。現時点では差別問題なども解消されて良いことばかりに感じるかもしれない。

しかし、それが当たり前になったとしたら、必ずしも良いことばかりとは限らない。いったい、誰が新たな世代に文化やルーツを教えていくのだろうか。

そこをカバーしていたのがヤンでもあったのだ。ところがヤンをいなくなってしまったことで、それをジェイクやカイラが引き継がなければならないという、外国人が他国の文化を教えていくという難しさも浮き彫りにされていく。

自分は何者であるのかを知りたいという欲求にかられたとき、人間は自分のルーツを知りたくなるものだ。そんな時に、自分には故郷が存在していないと思うかもしれない。

多様性、疑似家族、グローバル化などが受け入れられた世界だからこその、新たな問題ともいえるだろう。

人間は常に新たなものを受け入れ、そして同時に問題点も抱えて成長してきた。対象物が異なるだけで、実は同じことを繰り返しているのだ。

点数 87

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