作品情報
ある夜、建物に車が衝突し女性が亡くなる。運転していたのは3階に住む裁判官夫婦の息子アンドレアだった。2階のモニカは夫が長期出張中のため一人で出産のため病院に向かう最中で、1階の夫婦は仕事場が崩壊したので娘を朝まで向かいの老人に預けることにした。小さな選択の過ちが、予想もしなかった家族の不和を引き起こし、彼らを次第に追い詰めていく。彼らが手にする未来の扉を開く鍵とは?スリリングな展開に目が離せなくなる。
『3つの鍵』レビュー
『息子の部屋』『母よ』など、悲劇や過ちからの脱却と再生、そしてその先にある希望を描き続けるナンニ・モレッティらしいというか、一貫した作家性を感じられる群像劇。
ローマの高級住宅街のアパートに住む、全く異なる3つの家族。経済的な不安はないにしても、壁の裏は問題だらけ。人には言えないことばかりだ。
「隣の芝生は青く見える」とよく言うが、壁を隔てた先には、どんな家庭にも大小の違いはあっても、何等かの問題は抱えているものだ。
車で人を轢いて殺してしまった息子の家族は、父が裁判官。法に仕える身として、罪は罪として認めるしかなく、自分の息子だからといって、刑を軽くしてしまったら、信用問題にも関わってくる。
息子は息子で、裁判官という利点やコネを活かさず、自分を刑務所に入れようとしている父を頭や倫理観では理解しているかもしれないが、許すことができない。
そんな状況の板挟みにあう母……といったように、ひとつの家庭でもドロついたドラマが展開される。
他にも幼い娘がシッターを頼んだ認知症の老人にレイプされたのではないかという疑念が頭から離れない父のいる家族や、ひとり産まれたばかりの赤ちゃんを育てる女性の夫は詐欺事件に関与して逃亡中などなど。
それが3つ同時並行で進んでいくのだから、なかなか鬱展開ではあるのだが、悲劇や過ちからは逃げることはできない。生きている以上は、それを背負って生きていかなければならないのだ。その先、何年も何重年も…….。
悪く考え出したらキリがない。だからこそ、少しでも前向きに、でも開き直るわけではなく、悲しみや過ちも自分の一部として付き合っていくしかないのだ。
そんな底辺からの再生は、まさにモレッティが得意とするものであり、今回もその演出は健在だ。
モレッティは様々な苦境をテーマとして描いてきたし、毎回誰もが共感できるものではないかもしれないが、同じ苦境に立たされていたり、過去に似た経験をした人にとっては、確実に心の処方薬として機能するのが、モレッティ作品といえるだろう。
点数 81
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