作品情報
緑豊かな郊外に建つモダニズム風一軒家の下見に訪れた中年夫婦のアランとマリー。購入すべきか迷う夫婦に怪しげな不動産業者がとっておきのセールスポイントを伝える。地下室にぽっかり空いた”穴”に入ると「12時間進んで、3日若返る」というのだ。夫婦は半信半疑でその新居に引っ越すが、やがてこの穴はふたりの生活を一変させていく……。
『地下室のヘンな穴』レビュー
穴に入るとなぜか12時間が経過し、3日間若返る。つまり時間を消費しながら、体は逆行するという不思議な物語。
マリーが穴に入っている間、12時間いなくなってしまうため、普通の人間付き合い、夫婦生活はどんどん崩壊していく。
人間関係というのは、相手のために時間を消費することで成り立っているものであり、いくら若返ったところで、人間関係の欠落がその対価として見合うものだろうか。
時間というもの、老いというもの、それが並行ではなくなった場合、人間はどういった行動をとるのだろうか。そんな心理的実験映画にもなっている。
それに加ええて、さらなる問題も発生してくる。一緒に穴に持っていった腐ったリンゴは、元に状態に戻ったかわりに、中身はアリだらけになっていたのだ。つまり、自分も若返ってはいるものの、中見はアリによって支配されているのではないかという、絶望的不安がのしかかる。
しかし、若さへの欲望と呪縛がマリーを狂わせていってしまう。それに若いだけでは武器にはならない現実社会の厳しさも被さってくる。今作の着点は非常にホラーとしか言いようがない。
3日若返る原理は?理屈は?そんなものは必要ない。
なんたって『ラバー』というタイヤが人を殺す映画を撮った監督、カンタン・デュピューの新作であるから、アイデアの見切り発車なのは言うまでもないし、それがデュピューの良いところだから、あえて改善してもらいたくもない。
変に理屈を考え過ぎてしまってスランプになるくらいなら、見切り発車上等と思うえる、そんな数少ない監督のひとりでもある。
着地点があやふやな感じになってしまうのは、もはや作家性でもあるかもしれないが、それ以上に実は哲学的なテーマも隠されていたりして、おバカなのか、天才なのか、その境界線を行ったり来たりしているところも嫌いになれない。
点数 81
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