作品情報
うだつがあがらない日々に憂鬱感を抱えながら、レストランの給仕として働くブリジット(ケリー・オサリヴァン)、34歳、独身。親友は結婚をして今では子どもの話に夢中。それに対して大学も1年で中退し、レストランの給仕として働くブリジットは夏のナニーの短期仕事を得るのに必死だ。自分では一生懸命生きているつもりだが、ことあるごとに周囲からは歳相応の生活ができていない自分に向けられる同情的な視線が刺さる。そんなうだつのあがらない日々を過ごすブリジットの人生に、ナニー先の6歳の少女フランシス(ラモーナ・エディス・ウィリアムズ)や彼女の両親であるレズビアンカップルとの出会いにより、少しずつ変化の光が差してくる――。
『セイント・フランシス』レビュー
主演のケリー・オサリヴァンの中絶経験を元に”グレタ・ガーウィグ映画っぽく”映画化された作品であるだけに、主人公の心の揺らぎは、当時ケリーが感じた感情そのものであり、セリフも思考も実話に基づいている。
物語の構造は『わたしは最悪。』と非常に似ていて、ある程度の年齢になったら、結婚して、子どもを産んで、家庭に入って子育てをするべきといった、ジェンダーレスと言いながらも理不尽なほどに蔓延るステレオタイプな女性像に苦悩する主人公の葛藤が描かれていく。
女性で生まれた時点で自分の考えを持つということが許されないのか、そもそも母性とは何なのか。
生活のためにナニーの仕事についたことで、出会った少女フランシス。自分の中から失ってしまった命と、目の前で無邪気にはしゃぐ命(フランシス)がブリジットを葛藤から逃がしてくれない。
自分の判断は正しかったのか、フランシスに対する感情は、子を愛する母の感情に近いのだろうか。
中絶したことを忘れたくても、考えないようにしたくても、体の異変が記憶を呼び戻してきてしまう。
そしてフランシスを見れば見るほど、自分が子どもを産んでいれば、こんな風になっていたのだろうかと考えてしまう。
それだったら子を持つことも悪くなかったかもしれない……。今更後悔しても遅いから、とにかく前に進まないといけない。といった、答えが出ないし、出したところで手遅れな葛藤がブリジットを苦しめる。
その葛藤の先にあるものは、人によって全く異なるだろう。しかし、同じような葛藤や過去の記憶に苦しむ人は、「大丈夫だよ」と慰めてくれるような、そんな優しい作品として着地している。
点数 80
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