作品情報
アフガニスタンで生まれ育ったアミンは、幼いある日、父が連行されたまま戻らず、残った家族とともに命がけで祖国を脱出した。やがて家族とも離れ離れになり、数年後たった一人でデンマークへと亡命した彼は、30代半ばとなり研究者として成功を収め、恋人の男性と結婚を果たそうとしていた。だが、彼には恋人にも話していない、20年以上も抱え続けていた秘密があった。あまりに壮絶で心を揺さぶられずにはいられない過酷な半生を、親友である映画監督の前で、彼は静かに語り始める…。
『FLEE フリー』レビュー
かつて自由の国とも呼ばていたこともあるアフガニスタン。多国籍な文化に寛容的で、アメリカやイギリスの音楽や映画が楽しまれていた。しかし、そんな平和な日常は地獄に変わってしまった。
当時の映像を交えながら、少年時代に激動の80年代を経験したアミンの視点から描かれる、難民の悲惨な運命は観ていて辛いものがある。視点と導入という点においては、ケネス・ブラナー監督の『ベルファスト』に近いものもあるが、全くコミカルな要素がないため、非常にどんよりとした空気が全編を通して漂っている。
今作が特徴的なのは、ドキュメンタリーでありながら、アニメーションという特殊な形態ということ。 戦争の悲惨さを描いたアニメは多く制作されてきたが、同じ手法をとった作品としては、2008年の『戦場でワルツを』という作品もある。
演出として狙ったわけではなく、そうしなければならなかった理由がある。それは、顔が知られてしまうと、アフガニスタンにいる親戚が処刑されてしまう可能性があるからだ。
それに加えて、アミンは同性愛者である。宗教上の理由から同性愛というものを認めておらず、こちらに関しても関係者が処刑される可能性があるのだ。
だからこそ、真実の物語でありながらも、アニメにすることで顔を隠し、素性がわからないようにしなければならなかった。
難民の悲惨な逃避行を描いたスリリングな物語でもありながら、同時にアミンが同性愛に目覚めたことへの戸惑いや葛藤といった、繊細なLGBTQとしての物語も描かれている。
同性愛自体が犯罪のように扱われているアフガニスタンで育ったアミンは、その感情の芽生えを受け止めることができなかった。そんな概念すらがなかったため、疫病や精神病のようにも感じていた。
それはアフガニスタンだけに限らず、日本やフィンランドでも同性愛は精神病扱いされていた時代があるし、保守的だったり、宗教が政治を支えている国では、今も変わっていない。
現代のように、コミュニティとすぐに繋がれる環境があったわけでもない。
そんな中でひとり苦しみながら、難民として日々の生活に危機感をもたなければならなかったアミンの心情の変化が丁寧に描かれている。
点数 83
コメントを書く