どんなカオスな世界になってしまったからといって、消せない過去やしてしまった過ちを抱えて生きていくしかないという、ダークヒーローの描き方は、映画やドラマでも魅力的である。
特に人を殺してしまっているキャラクターの葛藤は、簡単には処理できるものではなく、何シーズンも通して描かれていくことも多い。
ミュージシャンがドラッグ中毒になってしまい、その葛藤で泥沼化していくというテイストの伝記ドラマは多くあるが、殺人ともなると、その葛藤には後戻りができない、やり直すことができない、被害者関係者と顔を合わすことができないという絶望感とも戦うことになる。
そんな抱えきれない物を背負ったキャラクターを紹介します!!
『ウォーキング・デッド』ニーガン
ネタバレになってしまうが、先日放送された『ウォーキング・デッド』のシーズン10・第12話で囁く者のグループに潜入していたニーガンが、リーダーであるアルファの首を持ち帰り、キャロルに渡すというシーンが描かれた。
これは細部は違っていても、原作の展開に沿ったものとなっている。ニーガンはこの後、原作では味方と簡単には言えないながらも協力関係のような位置づけのキャラクターとなるが、ドラマ版でもそうなりそうだ。
しかし、ニーガンは原作よりも人情を大事にしているようキャラクターとして描かれているため、原作よりも今後のシーズンでは大きな役割となるキャラクターとなる可能性は高いのだ。
『ウォーキング・デッド』の場合、主人公であったリック自身が障害となる人間を殺してきた過去と向き合っているキャラクターではあったし、劇中でもモーガンの登場などによって、その葛藤や衝動を内面的に描くこともあったが、リックは主人公という位置づけのために、どうしてもやっていることの正当性が強調されていた。
そんな中で登場したニーガン。原作同様に独裁者的思想の持主ではあるが、ニーガンなりの正義や流儀があり、時には思いやりもみせる。リックの仲間であるエイブラハムとグレンを有刺鉄線ぐるぐるバットのルシールで頭を粉々にするというショッキングな殺し方で最悪のデビューを果たす。
しかし、先に襲撃してニーガンの仲間を大量に殺したのはリック達なのだ。やり方は残酷な部分もあるかもしれないが、結果的に人を大量に殺してきているリックを別角度から見た様な人物でもあるのだ。
ドラマ版では、リックが去ってしまい、カールも原作とは違う道を辿ってしまっている。ミショーンもシーズン10をもって正式に卒業が発表さけていることを考えると、シーズン10の後半とシーズン11はニーガンが中心となる物語になる可能性は高い。
また一時的に離脱していたマギーも戻ってくることが決定しており、グレンを殺されたマギーとニーガンの関係性がより深く描かれるのかもしれない。
『HEROES』サイラー
ドラマシリーズ『HEROES』で『アメリカン・ホラー・ストーリー』『スター・トレック』のザカリー・クリントが演じていたサイラー。
サイラーというキャラクターは、相手の脳の構造を見ることで能力を奪うというコピー能力の持ち主であるがために、能力を手に入れるには人を殺していくしかないということと、能力の副作用として殺人衝動が抑えられないことから、殺人鬼と化してしまうが、元々は時計職人の平凡な青年であったがために、その葛藤は全シーズンを通して描かれた。
一時、主人公ピーター・ペトレリの母に利用され、ピーターと兄弟であると信じこまされたことで、ピーターと協力関係となり、ヒーローとして生きる選択をすることになる。しかし、結果的に騙されていたと知ったサイラーは再び悪へと逆戻りするものの、葛藤は消え去ることはできず、ファイナルシーズンでは多くの人を救うことになり、ヒーローとして目覚める。
脚本家のストライキ問題や、ドラマに打切りによって、どうしても強引な展開となってしまっていて、サイラーの描き方に不満が残る部分はあるが、サイラーの葛藤は『HEROES』の中で核となっている。
『バフィー 恋する十字架』スパイク
抱えきれない物を背負うキャラクターとして、忘れてはならないのは『バフィー 恋する十字架』のスパイクである。
元々、心優しき詩人であったウィリアムがヴァンパイアになってしまったのがスパイクである。彼の母は病気がちで助けるつもりで母もヴァンパイア化させたが、母の変貌ぶりは彼の想像を超えており、その葛藤を抱えることになる。
また血を欲する衝動や自分の内気な部分を隠すために殺人を繰り返すことになってしまう。
そんなスパイクが初登場したシーズン2では、バフィーの宿敵としてだった。どうにかしてバフィーを殺そうと奮闘していたスパイク。この時点では、あくまでゲストキャラクター扱いであって、登場しないエピソードの方が多かった。
シーズン4でモンスター撃退組織「イニシアティブ」によって脳内にチップを埋め込まれてしまったことで、人間を殺すどころか暴力もふるえない状態になってしまう。しかし、モンスターやヴァンパイアへの暴力に関してはチップが作動しないことから、スパイクの衝動はモンスターに向けられることで、強制的にダークヒーローのような存在となる。
バフィー達にとっても、チップの存在があることから、スパイクをメンバーとして参加させることが多くなり、はじめは憎しみ合っていたキャラクター感も認め合うことになっていくという過程は、このドラマで一番の魅力的な部分でもある。
実はジョーク好きでテレビドラマや映画を好むという、少しオタク気質な設定もキャラクターに深みを出していた。
スパイクもバフィーへの憎しみや執着がいつしか、恋心だと感じはじめ2人は急接近するものの、バフィー側の葛藤もあり、この恋愛劇は一筋縄ではいかない。バフィーは、自分の心の穴を埋める存在としてスパイクを利用していることに対して複雑な心境ではあるが、スパイクはそれを理解したうえで独特の距離感で支え合う関係性となる。
最終回でバフィーは、スパイクが大切な存在だと心から確信して、認めることでスパイクに「愛している」と伝えるが、スパイクは「嘘だな」と返す。この独特の距離感は2人の愛のかたちでもあるのだ。
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