作品情報
父の幻想と娘の現実。ふたりは同じ空間で別々の24時間を生きたー 同じ場所にいながらも景色が異なる二人の旅路の行方とは―。 ニューヨークに住むメキシコ人移民レオは作家であったが、認知症を患い、誰かの助けがなくては生活はままならず娘モリーやヘルパーとの意思疎通も困難な状況になっていた。ある朝、モリーはレオを病院に連れ出そうとアパートを訪れる。モリーが隣りにいながらもレオは、初恋の女性と出会った故郷メキシコ、作家生活に行き詰まり一人旅をしたギリシャを脳内で往来し、モリ―とは全く別々の景色をみるのだった―。
『選ばなかったみち』レビュー
サリー・ポッターといえば『ジンジャーの朝 〜さよなら、わたしが愛した世界』や『耳に残るは君の歌声』など、しっとりとした作風の中に、ずっしりとくるものを落とし込む天才であるが、今作もそんなテイストが活きた作品といえる。
アンソニー・ホプキンス主演の『ファーザー』のように、悲しいことではあるが、それなりの年齢になっての認知症というのは、まだ受け入れる余地があるというもの。しかし、それがまだ20~30年は生きるであろう相手ならどうだろうか。
自分の親だから、家族だからと言ってしまえば、全力で支えるのは当たり前と感じるかもしれない。しかし、それは綺麗ごとでは決して済まない。
少なくとも、その相手が生きている間は、自分にとっての自由は存在しなくなってしまうのだ。施設に入れることもできるかもしれないが、その場合の費用だったり、そもそも自分の親を施設に入れることへの葛藤もある。家族という逃れられない呪縛だ。
今作も『ファーザー』同様に、認知症になってしまったレオ(ハビエル・バルデム)の視点も描かれていく。それは過去に、自分が選択してこなかった道「選ばなかったみち」を想像・妄想するものだった。
そんなレオの想像した世界は、皮肉にも美しい。
認知症の父に訴えかけることのできない、どうしようもない怒りと悲しみがこみあげてくる。若くて将来のあるモリー(エル・ファニング)は、父親に情がある分、割り切れないことへの不安や、自分の将来への不安……様々な種類の不安や葛藤が襲う。
今作は、サリー・ポッターの弟が若年性認知症になってしまった経験を元に書き下ろされたこともあって、経験した者しかわからない闇の部分が鮮明に描かれているのだ。
これは感動作ではなく、目を背けたくなるほどの人生の地獄でもある。逆にこれを感動作と感じるのであれば、実際にそういった状況を体験したことがないからだ。
点数 79
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