作品情報
キャメロン(マハーシャラ・アリ)は、ある日、不治の病で末期と診断される。キャメロンには、まだ小さい息子がおり、妻ポピー(ナオミ・ハリス)のお腹には新たな命も存在している。家族を支えなければならない、自分が家族を残して死ぬわけにはいかない。そこでキャルロンはクローンに自分の意識や記憶をコピーすることを決意する。自分とそっくりどころか、自分そのものであるクローン。自分が生き続けて家族を支えられる一方で、家族が奪われてしまう様な感覚にも襲われてしまう…….。
『スワン・ソング』レビュー
短編映画『僕はうまく話せない』が第88回アカデミー賞を受賞したベンジャミン・クリアリー、待望の長編監督デビュー作品。
SF映画においてクローン人間を扱った作品は多く存在しているが、今作は斬新なアプローチでありながら、人間ドラマの側面からも濃厚な作品といえるだろう。
『アイランド』『わたしを離さないで』のように、病気になった自分の臓器を得る目的にクローンを作るといった切り口は多いが、どれも人間側のエゴとして描かれることが多く、人間側かクローン側のどちらかに極端な倫理観の欠落があるため、ある程度割り切ることができる。
しかし、今作は死を間近にしたキャメロンが、家族のために自分のクローンを遺すというもの。自分の記憶、思考をそのままコピーしていることもあり、目の前にいるクローンは自分自身で。
また、クローン側も全てをコピーされているため、自分が作られた目的も、自分がクローンという認識はあるものの、それを認めたくない感情もある。
自分の人生が奪われているような感覚もあり、それを感じていることを感じるクローン。それぞれの複雑な感情が交差する。
キャメロンの病気を告白して、僅かな余生を過ごすという選択肢もあったし、それはキャメロンの気持ち的な側面からは幸せなのかもしれないが、妻のお腹の中には、新たな命も宿っている。
今後の家族にとって、決して良いものではない。そんなことはわかりきっているはずが、感情が抑えられない。
妻と息子との最後の時間の中で、死にゆく自分と、生きゆく自分を同時に感じる、言葉では言い表せない切なさは、胸が苦しくなる。
一人二役を繊細な表情の変化で演じ分けたマハーシャラ・アリと、物語を彩る『もう終わりにしよう。』のジェイ・ウェドレイが手掛けた音楽が、単なる近未来SFではなく、濃厚な人間ドラマへと進化させた。
点数 88
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