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この映画語らせて!ズバッと評論!!『さがす』父を探すはずが、環境や状況が作り出す人間の闇にたどり着いてしまう!?

この映画語らせて!ズバッと評論!!『さがす』父を探すはずが、環境や状況が作り出す人間の闇にたどり着いてしまう!?

作品情報

大阪の下町で平穏に暮らす原田智と中学生の娘・楓。「お父ちゃんな、指名手配中の連続殺人犯見たんや。捕まえたら300万もらえるで」。いつもの冗談だと思い、相手にしない楓。しかし、その翌朝、智は煙のように姿を消す。ひとり残された楓は孤独と不安を押し殺し、父をさがし始めるが、警察でも「大人の失踪は結末が決まっている」と相手にもされない。それでも必死に手掛かりを求めていくと、日雇い現場に父の名前があることを知る。「お父ちゃん!」だが、その声に振り向いたのはまったく知らない若い男だった。失意に打ちひしがれる中、無造作に貼られた「連続殺人犯」の指名手配チラシを見る楓。そこには日雇い現場で振り向いた若い男の顔写真があった――。

『さがす』レビュー

『岬の兄妹』の片山慎三、長編監督2作目。

環境によって培われる心の闇という点では『岬の兄妹』にも通じる部分があるし、結局のところ行政は頼りにならなくて、それが良からぬ方向に向かってしまう人を増やしているのではないかという、お役所対応への不満なども映像としてにじみ出ていたりする。

『岬の兄妹』と比べると、予算も出でいることで、より商業映画的になった部分があったりもするが、それによって、残虐性に関してボン・ジュノ感は増している。

というのも、今作の片山慎三監督は、もともとポン・ジュノへのリスペクトが強く、ノーギャラでいいから!とアプローチをかけて、『母なる証明』の助監督をしていたほどの人物なのだ。

ポン・ジュノ作品は、貧困などの環境から生まれる悪意や、声が届かないもどかしさ、日常に隠れる身近な闇を描いていることもあって、どことなく共通するテーマや、影に埋もれたコミニティ的な部分を描き続けているのは、間違いなくポン・ジュノへのリスペクトによるもの。

ポン・ジュノの場合も同様のことがいえるが、身近ではない人こそ楽しめるテイストの作品ではあるかもしれない。どこか自分の環境とは違うから、誇張されたフィクションのように楽しめる。

しかし、それぞれのテーマに近い環境に生きる人が観た場合、観ていられない惨劇が繰り広げられるともいえるのだ。

今作が、どこまでネタバレしていいのか不明なため、前作の『岬の兄妹』を例にすると、障がいや病気を抱えた家族をもちながら、貧困の中で生きる人というのは、少なからずいる。

そんな似た環境の人や、過去にそんな経験のあった人にとっては、目を背けたくなる状況を、映画という「現実逃避」の中でも観なければならないというのは拷問に近い部分もある。そこから何か、かすかであっても、希望があるのなら、まだ意義があるかもしれない。

しかし、ポン・ジュノも片山慎三も、テーマを投げっぱなしで、結局のところ環境から抜け出すには、犯罪にしか行きつかないというような、貧困や理不尽な状況を一種のエンタメとして消費させてしまうことに賛否が分かれるかと思う。

現実社会においても答えの出ない問題であることは間違いないため、徹底的にブラックなエンタメにしてしまう考え方も、作家性としては、否定はできない。容赦のない切り口は、逆に評価される場合も多いだろう。

ただ、今作で扱われている、ある「病気」もしくは介護などでもいいが、そういった日々をリアルタイムにおくっている人が、これを観たら、どんな思いをするだろうか……私は、それが終始頭から離れなかったし、今作は試写で10月頃に観たが、そう思ったことだけは鮮明に記憶に残っている。

点数 79

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