作品情報
韓国の地方都市で暮らすシングルマザーのユンヒの元に、長い間、連絡を絶っていた初恋の女性から一通の手紙が届く。母の手紙を盗み見てしまった高校生の娘セボムは、自分の知らない母の姿をそこに見つけ、手紙の差出人である日本人女性ジュンに会わせようと決心をする。セボムに強引に誘われるかたちで、ジュンが暮らす北海道・小樽へ旅立つユンヒ。それは、二十年前の自分と向き合う、心の旅でもあった―。
『ユンヒへ』レビュー
今作は同性愛を扱ったものではあるが、時代によって引き裂かれた2人の再会を描いた、静かな物語だ。
ドラマや映画という媒体を使って、メッセージを発信していても、どこかフィクションとして観ていて、一般的には、まだまだ自然なものと受け入れる気配は感じられない。
特に宗教上の問題や、国の方針によって、何世紀にも渡って、同性愛はタブーだと受け継がれてきたことか背景としてある国は、多様性だとリベラルが訴えたところで、受け入れる余地もない状態だったりする。
韓国における同性愛の歴史というのは、決して理解されていたとは言えないもので、今でこそ『ある詩人の恋』や『メソッド』といった、同性愛を扱った作品も製作されるようにはなったものの、同性愛やトランジェンダーを映すことをタブー視されていたのは、まだ2000年代でも続いていた。
その理由としては、韓国は同性愛を精神疾患として扱ってきた過去をまだ引きずっているからだ。少し前の世代までその概念というのは、引き継がれており、今でも風当たりは強く、まだLGBTQの居場所は映像業界にほとんどないといえるだろう。
今作のユンヒとジュンも、自分たちが同性に対して「愛」を感じたことさえも許されない時代ということもあって、その感情自体が確かなものとしないまま、蓋をしてしまったのだ。その後、ユンヒとジュンの心に穴が開き続けていた、自分の一部をずっと無くしたままのような状態が続いていたといえるだろう。
再会したふたりが交わす会話も「ひさしぶり」と、少しの言葉でしかないが、この少しの会話の中で、互いに欠けていたものが埋まった瞬間を確認できる。決して再び恋が燃え上がるような劇的な展開をむかえるわけではないし、この再会は心の穴を埋めるのと同時に、正面から伝えられた、何かよくわからない感情のままの別れではなく、明確に愛に対しての「別れ」でもあるのだ。
今作は全体的にセリフも少なく、多くを語る作品ではないが、ユンヒとジュン、そしてユンヒの娘、ジュンの叔母という3世代のキャラクターに、時代によって日々アップデートされていく価値観や概念の変化を体現させることで、明確なセリフなどからではなく、観ている側に自然に感じさせる全体的な演出と画作りは見事な作品だ。
点数 85
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