作品情報
血の繋がらない親に育てられ、4回も苗字が変わった森宮優子(永野芽郁)。わけあって料理上手な義理の父親、森宮さん(田中圭)と二人暮らし。今は卒業式に向けピアノを猛特訓中。将来のこと恋のこと友達のこと、うまくいかないことばかり…。高校を卒業した優子は、森宮さんに結婚を反対され、かつての親巡りの旅に出ることに―。一方、夫を何度も変えて自由奔放に生きる魔性の女・梨花(石原さとみ)。泣き虫な娘のみぃたん(稲垣来泉)には愛情を注ぎ共に暮らしていたのだが、ある日突然、娘・みぃたんを残して姿を消してしまう―。やがて、全く違う2つの物語が交差するとき、驚きとともに、今年最大の感動が訪れる。
『アイの歌声を聴かせて』レビュー
離婚率の多くなった、現代社会ならではの設定にも思えるかもしれないが、親と子に「血の繋がり」がないというのは、なにも離婚だけではなく、戦争や災害によっても起こり得ることではあるし、海外においても2000年代以降、パートナーがいなくても人工授精によって妊娠したいという女性が増えたことや、LGBTがオープンになってきたこともあり、養子をとるという家庭も増えている。日本もそういった家族関係が今後増えていく可能性もある。
あらゆる状況によって、血の繋がらない家族関係というのは、今後増加傾向にあることは間違いない。そこで問われるのが、血の繋がりがなければ「母性」や「父性」というのは、芽生えないのだろうか?ということ。
『MOTHER マザー』(20)『マー -サイコパスの狂気の地下室-』(19)のように、実親であっても、いわゆる「毒親」と呼ばれる親を描いた作品も多く存在している。これも言ってみれば屈折した母性からなるものである。母性というのは、単なる形式的なものでしかなく、重要なのは血の繋がりの有無に関係なく、いかに相手を思いやることができるかだ。
森宮も初めて結婚というだけで、ままならない状況の中、さらに子供がいるということを土壇場で知らされ、急に環境が一変してしまう。「父親」とは何か?ということを常に自問自答しながら、自分なりの父親像を築いていく……。この過程が大切だと感じさせてくれる田中圭の好感度は上がりっぱなし。
ミステリー要素もある作品ではあるが、映画の宣伝においても頑なに隠され、ネタバレ規制をされている「秘密」や「嘘」は、正直言ってしまうと、前半でなんとなくわかってしまう。この秘密が何かを言葉ではなく、表情で感じさせる石原さとみの演技も必見だ。
今作が優れているところは、親と子のそれぞれの視点が絶妙なバランスで交差する点である。観る世代によって感じ方は違うかもしれないが、その時の自分の立場によって、感じ方がまた変わってくる作品だけに、何度観ても楽しめるだろう。
点数 85
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