作品情報
『彼方から』(15)でヴェネチア映画祭金獅子賞を受賞したビガス待望の最新作。父の遺骨を取りに来た少年は、その帰り道で父によく似た男を見かける…。ヴェネチア映画祭コンペ作品。
『箱』レビュー
先日評した『市民』と同じく、メキシコが舞台となっており、共通する点も多い作品ではあるが、メキシコでは麻薬カルテルや犯罪グループの暗躍によって、年間で万単位の人々が行方不明になっており、紛争などによっても、多くの人間が地面に埋まっている。
日本においても山を崩したりすると、戦国時代や戦争時期に埋められた白骨化した死体が出てくることがあったりするが、メキシコはそこら中に死体が埋まっている。
土地開発や大雨などによって、埋まっていた死体が姿を現すということも日常的に起こりうる。そんなメキシコでは、死体や骨となって再会を果たすのではなく、生きている状態で、どうにかしてもらいたいという国民の不満の対応に追われている状況。
主人公の少年も突然見つかった父の遺骨の入った箱を受け取るためにメキシコシティから北部メキシコにやってくるところから始まるため、メキシコという国の現状を知っていないと、いったいどういうことなのか把握し辛い点もあるかもしれない。
父の骨の入った箱を持ち帰える途中で、父親にそっくりな男マリオを目撃する。何等かの理由で死んだことにして、別人として生活をしているのだと思いこんだ少年は、その男に接触を図るが、マリオは認めない。
家や職場に現れる少年のあのりのしつこさに根負けして、仕事の手伝いをさせるうちに、奇妙な人間関係が築きあげられていく。少年もそれが日常になり、マリオと行動を共にすることで、貧困層に職場を紹介したり、家では子ども用の雑貨を扱い、良い夫で良い父のマリオの姿に、より自分の父親像を重ねていく。
マリオも自分の子どものように錯覚しはじめ、自分の夢を語るが、それを実行するために、輸送中のトラックを襲い、さらには紹介先で問題を起こしていた少女らしき死体の処理を手伝わされることに。
少年の良心と父親と思い込んだ男への信頼や忠誠心が葛藤する中で、ふと我に戻ると自分が犯罪に手を染めている現実に苦しむことになり、心の葛藤によって両極端な態度に出てしまう。
マリオは、少年が裏切るかもしれないと思う不安から、自分は父親だと少年に言うが、これが本当なのか、それとも裏切らないためだけについた嘘なのは、わからない。
人道的な仕事をしていて、家庭人のように振舞っているマリオが裏では犯罪に手を染めていて、それを麻薬カルテルや人身売買組織の仕業に見せかけている。
一般市民が犯罪者になってしまう、負の連鎖や限られた環境下で構築される屈折したモラルが少年の視点を通して、容赦なく描かれる非情に後味の悪い作品であった……。
点数 87
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