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この映画語らせて!ズバッと評論!!『キャンディマン』都市伝説の構造自体に私たちの記憶を巻き込んで描くメタ的映画!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『キャンディマン』都市伝説の構造自体に私たちの記憶を巻き込んで描くメタ的映画!!

作品情報

舞台は、シカゴに現存した公営住宅「カブリーニ=グリーン」地区。その界隈では、鏡に向かって 5 回その名を唱えると、右手が鋭利なフックになった殺人鬼に体を切り裂かれるという怪談めいた都市伝説が語り継がれていた。老朽化した最後のタワーが取り壊されてから 10 年経ち、恋人とともに新設された高級コンドミニアムに引っ越してきたヴィジュアルアーティストのアンソニー(ヤーヤ・アブドゥル=マティーン2世)は、創作活動の一環としてキャンディマンの謎を探求していたところ、公営住宅の元住人だという老人から、その都市伝説の裏に隠された悲惨な物語を聞かされる。アンソニーは恐ろしい過去への扉を開いてしまったのだ……。

『キャンディマン』レビュー

92年の映画『キャンディマン』は、「都市伝説」を扱った映画である。都市伝説を扱ったホラー映画は『ルール』(1998)『ジーパーズ・クリーパーズ』(2001)『スレンダーマン 奴を見たら、終わり』(2018)など数えきれないほど存在しており、『キャンディマン』においても「ヘルレイザー」シリーズのクライヴ・バーカーの短編小説「The Forbidden」が原作であり、着想元は都市伝説「ブラッディ・マリー」である。

都市伝説というのは、場所によって形状を変えていくうちに別のものに変化していくという特徴がある。日本においても「口裂け女」の特徴が地域によって異なるのと同じように、都市伝説の派生された先で更に小説や映画といった媒体によって、より独自の発展を遂げていくもの。

92年版も今作も『キャンディマン』が他の都市伝説映画と比べて特徴的なのは、都市伝説に登場する殺人鬼やクリーチャーを直接登場させる、もしくはアレンジを加えて現代風にアップデートさせたものとは異なっていて、都市伝説の誕生・派生構造自体を描いた作品であるということを知って観なければいけない作品だ。

キャンディマンは92年版の他にも『キャンディマン2』(95)『キャンディマン3』(99)が制作されているが、これらの設定のブレや、つじつまが合わない部分も、あくまで派生された物語のひとつとして、異なる視点からの解釈とすることによって、実は全てが繋がっていて、全てが白人監督の手によるものだったということが大きな意味をもたらしている。

Yahya Abdul-Mateen II as Anthony McCoy in Candyman, directed by Nia DaCosta.

今作では、キャンディマンの都市伝説はいつしか、92年版の主人公ヘレン・ライルの物語に変換されてしまっていることが冒頭で提示される。

黒人の貧困層やギャングが多く住んでいたシカゴの住宅地カブリーニ=グリーンに白人至上主義者や都市開発目的とした役所連中や富裕層たちが立ち寄らないように怖がらせるための物語が、狂った白人に黒人が恐怖する真逆に作用した物語に変わってしまった。

そういったイメージが強くなってしまった理由としては、92年版でヘレンがキャンディマンの模倣犯を捕まえたことによって、低俗な犯行として決着したことに原因がある。

キャンディマンの物語構造が崩れ、このままでは人々の記憶から消えてしまうことから、ヘレンの死をもって、崩されたキャンディマンのイメージを復活させようとしたが、計画が失敗したことにより、キャンディマンがヘレン主体の都市伝説へと変換されてしまったことがわかる。

映画自体もキャンディマンよりも、ヘレンが犬の首を切断して血塗れになっているシーンや、生きたまま炎で焼かれる印象が強く残っているため、ヘレンの物語と誤解している人が多いことから、92年版を観たことのある人の曖昧な記憶、つまり現実世界にもリンクしているメタ構造ともなっている。

例えば音楽業界においても、ビッグ・ママ・ソーントンの「ハウンド・ドッグ」が今ではエルヴィス・プレスリーの曲としてのイメージが定着してしまっているように、白人が黒人や先住民の文化を奪ってしまう構造は、カブリーニ=グリーンのような土地においても、都市伝説においても例外ではなく、全てが白人のものに変換されてしまう皮肉も込められている。

新生キャンディマンのイメージを黒人差別へのカウンター的な存在として、現実社会で映画を観た私たちが拡散させることこそが今作の狙いであるようにも感じられる。そんなメタ構造によって、新たなキャンディマンによる都市伝説は誕生し、キャンディマンは再び黒人のものとして戻ってきたのだ。

キャンディマンに関しては、「ブラッディ・マリー」が着想元になっているだけに、本来は逆の立場ではあるが、元ネタが何だとしても、イメージを定着させたもの勝ちという、エンタメ業界すらも皮肉っているようだ

点数 82

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