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発掘!未公開映画研究所【インド映画編】『マイネーム・イズ・ハーン』911テロ後のインド人、イスラム教徒の視点から描く「人間のあり方」

発掘!未公開映画研究所【インド映画編】『マイネーム・イズ・ハーン』911テロ後のインド人、イスラム教徒の視点から描く「人間のあり方」

作品情報

心の美しい主人公が繰り広げる奇跡を描いた、号泣必至のヒューマンドラマ!アメリカ在住のイスラム教徒、ハーンはアスペルガー症候群を患っていたが、ある日ヒンドゥー教徒のマンディラと出会い恋に落ちる。結婚して幸せに暮らす二人だったが、9.11事件を機に全てが一変する。やがて“ある決意”からアメリカ横断の旅に出ることに…。

監督・脚本・出演

監督:『家族の四季 -愛すれど遠く離れて-』 カラン・ジョーハル

出演:

ディア・ライフ』『たとえ明日が来なくても』シャー・ルク・カーン

恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』『トリバンガ ~踊れ艶やかに~』カジョール

『ザ・トゥナイト・ショー』クリストファー・B・ダンカン

発掘!未公開映画研究所とは?

宗教性の問題、出演者の知名度、お笑いの感覚の違い…などなどの理由によって、日本では公開にいたらない作品が多く存在する。アカデミー賞にノミネートされている作品でも未公開作品は多い。

それもそうだろう、逆にアメリカやフランスで日本の映画が何でも公開されていると言えばそんなわけもなく、全体的に見て1割にも満たないだろう。

日本はそんな中でも割と海外の作品を公開している珍しい国であって、そんな中でもやっぱり公開されない映画というのは山のように存在する。

「発掘!未公開映画研究所」はそんな映画を発掘していくというもので、その中でも更に知名度が低いものを扱っていくつもりだが、必ずしも良作ばかりではない、中には内容がひど過ぎて公開できなかったものもあるのでご注意を!!

そして…未公開映画の宝庫でもある国を見つけてしまった。それはインド映画である。年間1900本前後の映画が公開されているインド。そんな状況にも関わらず、日本で公開されるのは20~30本といったところ。

このペースでは年間で1000本以上の未公開作品が蓄積されていることになるのだ。Netflixの普及によって、劇場公開されていないものやソフト化されていない作品が大量に観られるようになったものの、まだまだ足りない!!

そんなインド映画の魅力を伝え、もっと日本でのインド映画の開枠が広がることを願いつつ、未公開映画研究所のスピンオフ企画として「インド映画」を積極的に紹介していこうと思います。

今回紹介するのは『マイネーム・イズ・ハーン』

短評

アメリカ在住のインド人リズワン・ハーンが大統領にあることを言うために旅に出た。それは「私はテロリストではない」という言葉だった。

911同時多発テロを扱った作品は『ユナイテッド93』『ワールド・トレード・センター』のような物理的なものから、『ものすごくうるさくて、ありえないほど近い』といった感覚的なものまで様々なアプローチによって描かれてきた。

イスラム教徒やアラブ系、もしくはアラブ系に外見上が近い人種の人権が損なわれたという側面から、911テロ後のアメリカを描く作品も非常に多く製作されており、10月に公開される『モーリタニアン 黒塗りの記録』でも、テロと無関係のイスラム教徒の青年の物語が描かれていた。

今作はアメリカを舞台に、インド人でイスラム教徒でアスペルガー症候群と、バックボーンに情報量が詰まった男ハーンの視点から「人間のあり方」を問う物語である。

アメリカ・リスペクトが強いカラン・ジョーハルだけのことはあって、今回もグローバリズム全開の作品ではあるし、あえてステレオタイプなミュージカルシーンを省いたことで、当時のインド映画としては、なかなか挑戦的だったこともあるのだが、今作は少し毛色が違う。

冒頭で語られるのは、宗教や人種は、あくまでその人の個性であって、実際にいるのは「良い人」と「悪い人」の2種類だけだということ。

アスペルガー症候群に対して差別的な発言に聞こえてしまうかもしれないが、余計な事を考えてしまう人より、アスペルガーであることで、純粋に「人間」としての本質を見るハーンの目線は、本来は人間のあるべき姿のようにも感じられるのだ。

前半はカジョール演じるマンディラとの恋模様が描かれる。そこには、障害者と健常者という壁と同時に、イスラム教とヒンドゥー教の宗教観の壁もある中で、マンディラの息子も巻き込んで、互いに惹かれていく姿は、いつものシャー・ルクとカジョールのメロドラマを観ているようではあるが、中盤で映画の中でもワールド・トレード・センターに飛行機が追突するシーンが映し出される。

前半のコミカルなメロドラマテイストは一気に暗い影に覆われて、後半になるにつれて、作品のテイストが911テロ、イラク戦争後のアメリカにおいて、イスラム教徒への偏見や差別が描かれていくことになる。

イスラム教徒の人々は、風評被害を恐れて、自分の宗教を隠そうとする中で、リズワンは、アスペルガーであることから、そもそもがイスラム教自体が悪いというわけではなく、一部の偏った思想、リズワンから見た「悪い人」が起こしたテロであって、そうでないイスラム教徒の自分たちが、宗教を隠さなければならない事実が理解できない。

全くもって、その通りではあるのだが、世間というのは、それが通用しない。

とは言っても、テロへの恐怖というのもあって、アメリカに住む人々の立場を考えると、非常に複雑な問題ではあるのだが、そんな中である悲惨な出来事がリズワン達に襲いかかってしまう。

そのことによって、リズワンとマンディラの間にも亀裂が入ってしまい、マンディラは無理なことを前提に、大統領に「テロリストではない」と言ってきて欲しいとリズワンを追い出してしまうことで、はじまりの空港のシーンに繋がるという仕組みだ。

911テロ後、ブッシュ政権からオバマ政権に代わり、人種的偏見が緩和されたような表現もされており、それは事実な反面、実際にはグアンタナモ収容所では、イスラム教徒やアラブ系の人々が、なかなか解放されなかった事実もあったりで、少し民主党へのプロパガンダ的側面やカラン自身のオバマへ期待が反映された部分もあったりする点に関しては、意見の分かれる描き方かもしれない。

ただ、人間の価値を図るのは、宗教や人種ではないことをストレートに訴えかけた作品としてかなり価値があるといえるだろう。

余談ではあるが、オバマ役にアメリカのトーク番組『 ザ・トゥナイト・ショー 』の中の再現VTRでもオバマを演じていた、クリストファー・B・ダンカンをそのままオバマ役にキャスティングしているのは、おもしろい試みだ。

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