作品情報
継母と2人の義姉と暮らすエラには、密かに抱く夢があった。それはファッションデザイナーになって、自分の店を持つことだった。ひたすら自分の夢に向かい服を作り続けるエラだった。社会で独立することが一般的ではなく、裕福な家系に嫁ぐことが女性にとっての最高の喜びだと信じられていた時代では、エラの夢は異色であった…。
『シンデレラ』レビュー
元フィフス・ハーモニーのカミラ・カベロにとって、本格的な映画には初出演となることや、ラテン系がシンデレラを演じることも注目点ではあるが、今作は今までの「シンデレラ」を徹底的に現代風に解体してみせた大傑作である。
ディズニー・チャンネルのティーン・ムービー的ビジュアルをあえて取り入れているのは、完全に風刺効果を狙ったもの。
「シンデレラ・ストーリー」には、主演のアイドルだったり、若手女優のプロモーション的側面もあったりするが、カミラ・カベロはすでに世界中で有名な歌手ということもあって、今さらプロモーションも何もなく、単に歌唱力で選ばれているというのがストレートで気持ちいい!!
王子様との結婚こそが女性の幸せの全てという時代錯誤、ステレオタイプな女性像を発信し続けてきた「シンデレラ」
この作品による解釈は年々厳しくなり、ネタにされ続けてきている。日本でも『哀愁しんでれら』がハイスペックだからといって、あまり知りもしない男性と結婚してしまった末路を描いていたが、実は表面上の問題提示だけでは、特別感を出すことができなくなっている。
「シンデレラ」含め、いわゆる「シンデレラ・ストーリー」とされるものは、いかに中身を解体していくかで独自性を出すかが試されていて、下手に手を出すと凡作になる可能性の高いものでもあるのだ。
リリー・コリンズ主演のディズニーによる実写版『シンデレラ』も現代風アレンジがされていたものの、型からは抜け切れていなかった。『アナと雪の女王』『ラーヤと龍の王国』などでも、男性に頼らない女性自身の独立という点において、現代的価値観をアップデートさせてきてはいるものの、どうも一歩踏み出すのには抵抗がある。これは大きすぎる企業であるがゆえ、またディズニー自身がステレオタイプな女性像を世界に発信してきたことを自ら解体していくことへの不安もある。
そういったテーマ性としての類似作品をふまえても、今作がやっている解体は、細部にまでこだわりが感じられる。
シンデレラはファッションデザイナーを目指していて、今は恋愛や結婚よりも自分の夢を叶えたいと願っている設定。
継母も単に意地悪なわけではなく、時代に沿った女性像と逆行した行為は、世間から批判を受けることを知っていて、そうなってほしくないという想いからだったり、王子との結婚を狙う女性たちはみんな肉食系女子だったり…と徹底的に従来の設定を解体させ、「シンデレラ」という「おとぎ話」を読んだ現代人の率直な感想がメタ的に反映されている。
Netflixのティーン・ムービーも同様ではあるが、ディズニーへのカウンターカルチャーや一周回って時代錯誤かもしれないが、シェイクスピアのように作品としてのオリジナル性を尊重しようという動きも同時に起きている。
ティーン向けコンテンツとしてのブランドイメージを奪おうという企業同士の争いが起きていて、実はティーン・ムービーは、動画配信業界においては激戦状態なのだ。
今作は、監督に「ピッチ・パーフェクト」シリーズで製作・脚本を務めていたケイ・キャノンを起用し、ミュージカルとして全く新しい『シンデレラ』を完成させた。
カミーラ・カベロのオリジナル曲「Million To One」も魅力的ではあるが、 『ピッチ・パーフェクト』同様に、オリジナル曲が中心ではなく、既存の音楽をアレンジ、時にはマッシュアップさせることで時代設定完全無視によるギャップも演出している。
ミスマッチに思えるかもしれないが『ムーランルージュ』が成功例としてあるし、今作の中にもマドンナの「マテリアル・ガール」が使用されていた。マドンナという存在自体が時代の先を行っていたこともあるかもしれないが、『ムーラン・ルージュ』へのリスペクトもあるように感じられた。
単純にキャッチーな曲が多く、ラテン、ヒップホップ、ポップとバリエーションも豊かである。アース・ウィンド・アンド・ファイアーの「Shining Star」やジェニファー・ロペスの「Let’s Get Loud」も捨てがたいが、舞踏会のシーンで使用されている、女性ラッパーのパイオニア、ソルト・ン・ペパの「Whatta Man」とザ・ホワイト・ストライプスの「Seven Nation Army」のマッシュアップは何度も聴きたくなる中毒性MAXな仕上がり!!
ミュージカル映画ファンならキャスティングを聞いたとき疑問に思った人も多いだろうが、今作にはミニー・ドライヴァーとピアーズ・ブロスナンが夫婦役で出演している。
ミニーといえば『オペラ座の怪人』では、ジャズシンガーでありながら、歌唱シーンが吹き替えられてしまっていたし、ピアーズは『マンマ・ミーア!』で酷い歌声と酷評され、続編の『マンマ・ミーア! ヒア・ウィー・ゴー』では、ほとんど歌うシーンがなくなってしまったほど。
だったら、なぜこの2人をキャスティングしているかというと、ミニは歌いたいけど歌わせてもらえない(女性として、妻としての立場から脱却できない)、歌わない(固定概念が強く頑固)といったように、俳優のミュージカルに対してのスタンスがキャラクターとして反映されているのだ
そして意地悪な継母役には、『アナと雪の女王』のエルサ役のイディナ・メンゼルを起用することで、ディズニーへの挑戦的態度と感じられる。
今作はもともとソニー・ピクチャーズによって、劇場公開される予定だったが、Amazonでの配信スルーとなってしまった。
しかし、アカデミー賞のノミネート資格が前年と同じであれば、ノミネートの可能性もあって、今年はミュージカルが熱い!かつてないミュージカル・イヤーだ!!
点数 88
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