作品情報
ボリウッドで映画や音楽アーティストのプロモーションビデオ制作といった仕事をしているケイラは親や親戚とは絶縁関係ではないまでも、距離がある状態。恋人がいながらも浮気をしてしまったり、好きな男性の前で別の男性にアプローチをかけたりしてしまう。そして常にイライラしている状態が続いているようで、空回りし続けてしまっている。好きだった男性も自分の意志に反して遠ざけてしまう。そんな状況の中で出会ったセラピストのカーンと出会ったことで、彼のセラピーを半信半疑で受けることになるが、徐々に彼女の抱えていたものが浮き彫りになっていくのだった…。
監督・脚本・出演
監督:『マダム・イン・ニューヨーク』ガウリ・シンデー
脚本: 『マダム・イン・ニューヨーク』ガウリ・シンデー
出演:
『ガリーボーイ』『スチューデント・オブ・ザ・イヤー 狙え!No.1!!』アーリアー・バット
『ハッピー・ニュー・イヤー』『私たちの予感』シャー・ルク・カーン
『ピンク』『グンジャン・サクセナ~夢にはばたいて~』アンガダ・ベディ
発掘!未公開映画研究所とは?
宗教性の問題、出演者の知名度、お笑いの感覚の違い…などなどの理由によって、日本では公開にいたらない作品が多く存在する。アカデミー賞にノミネートされている作品でも未公開作品は多い。
それもそうだろう、逆にアメリカやフランスで日本の映画が何でも公開されていると言えばそんなわけもなく、全体的に見て1割にも満たないだろう。
日本はそんな中でも割と海外の作品を公開している珍しい国であって、そんな中でもやっぱり公開されない映画というのは山のように存在する。
「発掘!未公開映画研究所」はそんな映画を発掘していくというもので、その中でも更に知名度が低いものを扱っていくつもりだが、必ずしも良作ばかりではない、中には内容がひど過ぎて公開できなかったものもあるのでご注意を!!
そして…未公開映画の宝庫でもある国を見つけてしまった。それはインド映画である。年間1900本前後の映画が公開されているインド。そんな状況にも関わらず、日本で公開されるのは20~30本といったところ。
このペースでは年間で1000本以上の未公開作品が蓄積されていることになるのだ。Netflixの普及によって、劇場公開されていないものやソフト化されていない作品が大量に観られるようになったものの、まだまだ足りない!!
そんなインド映画の魅力を伝え、もっと日本でのインド映画の開枠が広がることを願いつつ、未公開映画研究所のスピンオフ企画として「インド映画」を積極的に紹介していこうと思います。
今回紹介するのは『ディア・ライフ』
短評
『マダム・イン・ニューヨーク』の女性監督ガウリ・シンデーが手掛けた人間ドラマで、インドが舞台ということが忘れがちになってしまうほど、実に西洋的な物語だ。
アーリアー・バットが演じるケイラは、ボリウッドでシネマフォトグラファーとして働いており、夜になればクラブで男あさりをするような毎日を過ごしていて、男性との関係が長続きしないし、そもそも異性との付き合い方がわからなくなってしまっている。
アーリアー・バット自体があまり保守的なキャラクターを演じる方ではなく、『ガリーボーイ』でもガラス瓶を投げつけるといった、強いイメージの女性像を演じている女優なだけに、今作の役柄が妙にしっくりきてしまう。
アメリカやイギリスだと、この手のこじらせ女子のラブコメみたいなものを多く製作してきているが、インド映画においては、こういった視点の映画は、グローバル化が進んできているとはいっても、まだまだ珍しい。
恋人との関係や親との関係、仕事に対してもつねにイライラしているようなキャラクターで人格障害のようにも感じられる主人公。
自分の想いとは、真逆の態度をとってしまって、相手を遠ざけてしまって、自暴自棄になるといった負のサイクルを繰り返している中で、たまたまセラピストと出会い、軽い気持ちでセラピーにかかったことから、自分の抱えたモヤモヤが次第に浄化されていくという、精神論だったり、哲学的なアプローチがなかなか新鮮な作品だ。
これは『シークレット・スーパースター』や『スケーターガール』などでも描かれている通り、嫁ぐ娘よりも跡取りになる息子を大切にする風習が抜け切れておらず、貧困で2人は育てられないとなった場合、娘は施設や親戚にあずけられてしまうこともある。そういった経験をした女性というのは、決して少なくない。
さすがに中国の「一人っ子政策」までとは、いかないまでも、子供に対しても男女に格差が色濃く出てしまうインドという国で育った女性は、トラウマを抱えてしまうことがあるということを、現代ならでは視点だったり、アメリカでも男性社会だというのに、インドなんて尚更、男性社会な映画業界の中で、ふんばってきた女性監督だからこその視点というのも反映させていていながらも、現代の20代たちのオープン・ライフも描いている。
これこそ日本がイメージしているステレオタイプなボリウッド映画からかけ離れた作品になっているだけに、今のインド映画を知るうえで観ておいた方が良い1本だと言えるだろう。
そして、今作においてはシャー・ルク・カーンが前に出すぎていないというのに、圧倒的な説得力をもったメンターのような存在という絶妙な立ち位置で単純に踊っていなくても、ひとりの映画俳優として素晴らし演技だと思う。
『ディア・ライフ』はNetflixで現在配信中
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