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この映画語らせて!ズバッと評論!!『スケーターガール』何かを変えることへの恐怖の壁を超える勇気と希望を子供たちに与えたのはスケートだった!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『スケーターガール』何かを変えることへの恐怖の壁を超える勇気と希望を子供たちに与えたのはスケートだった!!

作品情報

インドの都心から離れた場所にある貧しいケンプール村に住むプレルナは、学校にも行けず、父の仕事の手伝いをする日々の繰り返しで、楽しみと言えるものなどない。貧しさと女性に生まれたことで教育を受けても仕方がないと親にまで思われている状況であった。そんな日々を一変させたのは、自分の父のルーツを知るためにインド旅行にロンドンからやって来たジェシカとの出会いだった。インドで教師をしていたジェシカの友人エリックが、たまたま持ってきたスケートボードの存在がケンプール村の子供たちに未来への希望をもたせることになっていくのだが…。

『スケーターガール』レビュー

『ワンダーウーマン』『ダンケルク』などの助監督やADを経て、今作が長編初監督作となるマンジャリ・マキジャニーのインド映画『スケーターガール』がNetflixで6月11日より配信開始となった。

マンジャリ・マキジャニーは、同じくインドの子供達のスケートライフを追ったドキュメンタリー『Skate Basti』も制作していて、この題材を扱った劇映画を長年計画していたのだろう。

インドの首都から離れた、ラジェスタ州ウダイプルのジャンワール村に世界旅行が好きなドイツ人女性のウルリケさんがスケートやお絵描きなどが自由にできる公園を作ったことが大まかなモデルとなっている作品である。

劇中に登場する「NOスクール、NOスケート」という言葉もウルリケさんが作ったものだ。

スケートに熱中しすぎて学校に行かなくなってしまったら、貧困からは抜け出すことはできないし、ただの現実逃避の道具でしかなくなってしまう。村の人々からの苦情もあったことから、かかげた言葉でもあったのだ。

今作では、「NOスクール、NOスケート」という言葉がそのまま使用されているが、舞台はジャンワール村ではなく、同じウダイプルの中でもケンプール村に変更されていて、ウルリケさんにあたるキャラクターもイギリス人のジェシカという設定に変更されていて、実話に忠実ではないという意見もあるかもしれないが、この映画の素晴らしい点は、今作を製作するにあたって、ケンプール村にも実際に「ドルフィン・スケートパーク」という公園を45日かけて建設したのだ。

ただ事実に沿って映画を作るのではなく、実際にケンプール村の子供たちが自由に遊べる場所を作り、そのまま施設として残すことで、別の村も救うということ。

映画を観た世界の人々がインドの貧困の現状を知り、「私も何かできるかもしれない」と行動せることもできるかもしれない。

映画によってインドの子供たちの未来を救うことができるとしたら、こんな良いことはないと思うし、作り手も自分の作品が世界を変えるきっかけとなるというのは、クリエイター冥利につきるのではないだろうか。

インドにおいて、カースト制度は表上は、すでになくなっているはずなのに、保守的で悪い概念によって、その意識が消えないままの地域や人がいるということ。これは黒人に対する奴隷時代から続く偏見が受け継がれていることや、未だに「女性は家にいろ、外に出るな」といった亭主関白な親父が日本にもいるのと同じことであり、見えないカースト制度、差別から脱するには、ひとりひとりの意識を変えていくしかない。

リベラルが多い都心部の意識は変わりつつあるし、近年のインド映画の女性の描き方や外国文化を積極的に取り入れてるオープンな姿勢からも過渡期であることは伝わってくるのだが、やはり問題は田舎や保守的な地域である。

スケートはあくまできっかけであって、今作でもスケートのことをもっと知ろうと、使ったことがなかったインターネットをしようとする主人公プレルナからもわかるように、狭い空間、狭い世界の中で一生を終えるのではなく、意識の幅を広げることが大切であり、それこそが世界を変えるきっかけになるということ。

以前、知り合いが貧しい国に行ったときに、善意でジュースを子供にあげようとしたら親に「味を知ってしまうから、やめてください」と言われたことがあったと言っていたが、新たなものを知ってしまう恐怖というのが定着していたり、差別意識が誇り高き伝統のように勘違いしている部分もあったりするのかもしれないが、狭い価値観の中で世代交代していっても、貧困が続くだけではないだろうか。

新しいものを知って、負の連鎖を自分で断ち切りたいと子供に思わせることが必要なのだが、その親自体がそういう教育を受けてきてしまっているのだから、仕方がない部分もある。

今作のモデルになったウルリケさんや、映画自体もそうだが、何かを変えるには、時に強行突破も必要であるということ。

映画界の暗黙のルールを良くも悪くもぶち壊してきているNETFLIXだからこそ踏み越えられるハードルだと考えると複雑な気持ちにもなったりもするが、NETFLIXの存在によって、世界に発信していこうというインドのグローバル意識を強くしたことは間違いない。

そう考えると今作のおけるスケートボードも、映画界におけるNETFLIXの存在のメタファーにも見えてきてしまう…というのはこじつけになってしまうが…

扱っているテーマはインドの闇の部分ではあるものの、全体的に暗くなりすぎず、父親の暴力・暴言描写も抑えてある感じがして、あくまでサクセス・ストーリーとしてコーティングしているだけに、非常に観やすい作品となっている。

点数 83

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