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この映画語らせて!ズバッと評論!!『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』ヒーロー像やカリスマ性をことごとく削ぎ落したカウンター・カルチャー!!

この映画語らせて!ズバッと評論!!『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』ヒーロー像やカリスマ性をことごとく削ぎ落したカウンター・カルチャー!!

作品情報

腐敗した権力に屈することを拒否し、兄弟や仲間たちと“ケリー・ギャング”を結成、国中にその名を轟かす反逆者となった、ネッド・ケリー。これまで英雄としてのみ語られていたネッド・ケリーを、悲惨な境遇から抜け出そうと、苦悩し、
怒り、闘う、ひとりの若者として描き出したピーター・ケアリーのブッカー賞受賞同名原作を映画化。かつて、ミック・ジャガーが『太陽の果てに青春を』で、故ヒース・レジャーが『ケリー・ザ・ギャング』で、レジェンド達が惚れこみ演じたネッド・ケリーを、主演作『1917 命をかけた伝令』で次世代の才能として世界中が注目するジョージ・マッケイが継承。母親が幼いネッドを売り渡すブッシュレンジャー(盗賊)のハリー・パワーに『アオラレ』『マン・オブ・スティール』ラッセル・クロウ、ネッドに屈折した想いを寄せ執拗に追い詰める警官のフィッツパトリックに『女王陛下のお気に入り』『X-MEN ダーク・フェニックス』のニコラス・ホルト、ネッドの家族に横暴を尽くすオニール巡査部長に『ジェントルメン』『パシフィック・リム』のチャーリー・ハナム、と豪華キャスト陣が結集。『アサシン クリード』でハリウッドに進出したジャスティン・カーゼル監督による現代性とパンク精神を加えた斬新な表現で、新たな伝説が誕生!カルト・ムービーの巨匠ジョン・ウォーターズ監督による“2020映画ベスト10”選出。

『トゥルー・ヒストリー・オブ・ザ・ケリー・ギャング』レビュー

オーストラリアにおいて、揺るぎないヒーロー的存在。単なるヒーローではなく、腐敗した権力や貧困と戦ったアウトロー的存在であったことからも、幅広い層から支持を受けるネッド・ケリー。

何度も映画化され、小説やコミックにも登場し、今活躍するキャラクターたちのベースになっている部分もある。逆に言えば、そんなネッド・ケリーのヒーロー像を崩すこと自体がタブーであるような空気感でもあるのだ。

大きくいえば神の存在だったり、日本の戦国武将なんかも同じことが言えるのだが、どうしても時間と創作によって、ろ過されたイメージがいつしかノンフィクションとされてしまうことがある。

今作の題材はネッド・ケリーではあるが、こういった定着してしまっているイメージや概念を壊すという点で、私が連想した作品は『ジーザス・クライスト・スーパースター』である。

『 ジーザス・クライスト・スーパースター』は、当時イエス・キリスト(ジーザス・クライスト)を人間的に描くことが許されなかった時代でありながらも、ロックやカウンター・カルチャーの波を受けて制作され、今では日本でも公演されているミュージカル作品であるが、制作当時は劇場が放火される騒ぎになったほどだ。

今作においても、後半で警察とのいざこざだったはずが、話が大きくなりすぎて後戻りができなくなってしまった状況におかれたケリー対して、親友でバイセクシャルの恋人ともされていたジョー・バーンが「みんながおまえをジーザス・クライストのように崇めている」と言うシーンがあって、これは正にジーザスに対してユダが助言したものの、後戻りができなくなってしまったことを連想させている。

ネッドの母と妻のメアリーは、かつて体を売っていた。これはジーザスの母である聖母マリアと妻であったとされているマグダラのマリア、2つの異なるマリアの像を提示しているようでもあった。

今作は宗教的な話ではないが、偏ったイメージを定着させてしまう背景には、宗教に似た構造が常に存在していることを暗示している。

今作を制作するにあたって、ジョージ・マッケイらに期間限定でパンクバンドを結成させたことこそが、今作がカウンター・カルチャーであることの証拠でもある。

今作の冒頭で「真実は含まれていない」というクレジットが出るが、これは内容自体が全てフィクションであるという意味では決してなくて、ベースとしてあるのは、ネッド・ケリーの語り継がれてきたストーリーでありながらも、その時々での葛藤だったり、キャラクター同意の関係性を意味しているのだが、そもそもが語り継がれている物語=真実かも不明確な状況を1周回って皮肉っているようでもある。

さすがにジーザスほどではないにしても、ネッドを神のように崇拝しているような団体からの圧力の逃げ道だったりもするわけだが、この「真実は含まれない」という言葉自体が示す「真実」はあってないようなものなのだ。

語り継がれているストーリーベースでありながら、他の映画などで描かれたヒーロー像、カリスマ性といったものは、ことごとく削ぎ落されていて、母の存在と人生の不条理さに翻弄されたひとりの人間として描いている点、同情もしくは惨めさも感じさせる結末への道の辿り方は、『ジーザス・クライスト・スーパースター』の構造にも非常に似ている。

残念なことに、オーストラリア国内のように、誰もがネッド・ケリーという人物の想像がつく国ではない日本。

誰でも知っている人物ということが前提としてある分、細かい描写が尺的に省かれていたりもすることからも、このパンクな構造を理解しようとするのであれば、少なくとも1作品はヒーローとして扱われたネッド・ケリーの作品を観ておく必要性がある。

ミック・ジャガー主演の『太陽の果てに青春を』は廃盤になってしまっていて観るのが難しいかもしれないが、ヒース・レジャー主演の『ケリー・ザ・ギャング』は比較的、手に取りやすい環境であるし、DVDには簡単なネッド・ケリーのドキュメンタリーも特典として収録されている。

『太陽の果てに青春を』に関しては、別の意味でクセのある作品ではあるが、『ケリー・ザ・ギャング』に関しては、とにかくヒーロー像を強調したような作品になっていて、都合の悪い部分は意図的に隠されていて、ある種のプロパガンダ的作品とも言えてしまう要素もあったりするほど極端であるため、比較するとちょっと違った楽しみ方もできる。

一番大きく違うのは、母親の描写である。『ケリー・ザ・ギャング』は、そもそも母親の存在感が薄く、影ながらネッドを見守るような立場として描かれていたが、今作においての母は、子供の成長よりも「自分の所有物」として扱っている点からも「毒親」と言うに相応しい存在して描かれ、母親に支配された人生という側面もあったため、この極端な描写の違いはパンクそのものだ。

映画業界に反逆し続けたジョン・ウォーターズがベストムービーに選んだのも納得できる。

CREDIT

監督・製作:ジャスティン・カーゼル『アサシン クリード』『マクベス』

脚本:ショーン・グラント『ベルリン・シンドローム』『スノータウン』

原作:ピーター・ケアリー「ケリー・ギャングの真実の歴史」

製作:リズ・ワッツ『アニマル・キングダム』『奪還者』、ハル・ヴォーゲル『エンドゲーム』、ポール・ランフォード

撮影:アリ・ウェグナー『レディ・マクベス』『ファブリック』

音楽:ジェド・カーゼル『エイリアン:コヴェナント』『ジュピターズ・ムーン』『ナイチンゲール』

編集:ニック・フェントン『プリズン・エスケープ 脱出への10の鍵』『アメリカン・アニマルズ』

プロダクションデザイン:カレン・マーフィ『アリー/スター誕生』

出演者:
ジョージ・マッケイ『1917 命をかけた伝令』『はじまりへの旅』
エシー・デイヴィス『真珠の耳飾りの少女』『ババドック 暗闇の魔物』
ニコラス・ホルト『女王陛下のお気に入り』『マッドマックス 怒りのデスロード』
チャーリー・ハナム『パピヨン』『パシフィック・リム』
ラッセル・クロウ『ナイスガイズ』『グラディエーター』
トーマシン・マッケンジー『ジョジョ・ラビット』「ロストガールズ(Netflix)」
オーランド・シュワルツ(少年時代)
ショーン・キーナン『ドリフト』「グリッチ(Netflix)」
アール・ケイヴ「このサイテーな世界の終わり(Netflix)」
マーロン・ウィリアムズ『アリー/スター誕生』
ルイス・ヒューイソン

2019年/オーストラリア=イギリス=フランス/英語/125分/ビスタサイズ/
原題:True History of the Kelly Gang/PG-12

配給:アット エンタテインメント 

後援:オーストラリア大使館
kellygangjp.com

© PUNK SPIRIT HOLDINGS PTY LTD, CHANNEL FOUR TELEVISION CORPORATION,
ASIA FILM INVESTMENT GROUP LTD AND SCREEN AUSTRALIA 2019

点数 82

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