作品情報
“音を立てたら、超即死”という極限の世界を生きるエヴリン一家。最愛の夫・リーと住む家をなくしたエヴリン(エミリー・ブラント)は、産まれたばかりの赤ん坊と2人の子供を連れ、新たな避難場所を求めてノイズと危険に溢れた外の世界へ旅立つが・・・。突然“何か”の襲撃に遭い、廃工場に逃げ込んだ一家は、謎の生存者エメット(キリアン・マーフィ)に遭遇する。彼との出会いを発端に、新たな謎と脅威が明らかとなり、一家の運命は激しく動き始めるのだった。
『クワイエット・プレイス 破られた沈黙』レビュー
今作はもともと続編を製作する予定ではなく、前作で完結する物語としてされていたため、前作では、音を立てると「何か」に襲われる恐怖を、映画というメディアをフル活用して、体感型の新感覚ホラー映画として製作された。
観ている側も「何か」の存在に怯え、また登場人物の誰かが音を立てるのではないのかという緊張感が全編に張り巡らされていて、一種のアトラクション的作品でもあった。
そのためなのか、「何か」の存在が実際に「何」であるかということには、ほとんど触れられず、謎の存在のままとされていた。これはストーリーというよりもアトラクション性を重視したことによるものだと感じられた。逆に言えば後のことを考えないで製作された証拠なのだ。
しかし、映画というものはヒットしたら、当然ながら続編の企画が浮上する。今作においても、予想以上にヒットしたことから、続編企画が浮上するのに時間はかからなかった。しかし、ただ短にB級パニック映画のようなFC展開として製作するのであれば、ゴーサインは出なかったともいわれている。
今作では、前作のテイストも守りつつ、前作であらゆる悲劇を経験したエヴリン一家は、ネクストステージに向かうことになる。
物語は前作の直後からスタートし、前作では不明確であった「何か」が現れた1日目からのストーリーも並行して描かれる。予告にも普通に登場し、前作で存在自体が知られている「何か」を今更隠すつもりがないのは明確だ。
つまり「何か」の出オチに頼ることができない状態からのスタートとなる。流石に同じテイストを維持することが難しい状態であることからも、家族の物語がより濃厚に描かれる方向へとシフトするしかなかったように感じられるが、前作のアトラクション的緊張感という点では、今回赤ちゃんにその役割があたえられている。
大人の意志に反して、いつ泣き出すかわからない赤ちゃんは、言ってみれば、いつ起爆するかわからない爆弾のような存在。だからこそ、観ている側も油断できないし、キャラクターたちにとっても緊張感を常にもたせる存在であるのだ。
前作の冒頭で「何か」の餌食になってしまった、ボーも再登場。さすがに成長が早い年ごろということもあって、演じている子役は前作のケイド・ウッドワードではなく、弟のディーン・ウッドワードが演じているものの、前作ではあまり観ることができなかった生きている頃りの様子や、きっかけとなったスペースシャトルのおもちゃが印象的に映り、前作の強烈な印象が蘇ってくることで、家族が抱えていた喪失感を改めて提示される。
前作の冒頭でのシーンを思い出させる演出を、今作の冒頭で描いた理由としては、子供というのは一番弱い存在として見せるためではないだろうか。しかし、今作を通して描こうとしているのは、真逆の回答へと導くものである。
アトラクション的ホラーから、極限の状況下で子供が成長していく過程を描く人間ドラマへと変貌を遂げていることで、恐怖を演出する道具としての役割でしかなかった「何か」という存在が、今作においては、子供が大人に成長する過程で経験するもの、つまり大切な人や親との別れといったものの、乗り越えなければならないもののメタファーのような存在としても機能しているようにも思えたのだ。
前半では、エミリー・ブラント演じるイヴリンが生まれたばかりの子供を抱え、さらに2人のまだ成長過程で不安定な子供をつれて未知の領域に足を踏み入れていかなければならないし、自分自身も夫を亡くした悲しみも癒えないままで、怖くて仕方がない中で必死に強い母親像を見せようと奮闘している。
前半は母の物語として描かれているのだが、後半になるにつれて、一番弱い存在であった子供が、親の手を離れ、環境に適応するかたちで成長していく。
親が守ってあげなければならない子供という存在が、いつしか逆転していく構造は、現実社会でも同じだが、極限の状況下では、その成長を加速させるのと同時に、子供という存在が、どんな時代においても「希望」の象徴であることを提示しているようでもある。
そういったことを強く感じられる作品に仕上がっている理由としては、監督であり、出演者でもあるジョン・クランスキーと主演で妻エミリー・ブラントには、実生活において、ヘイゼルとヴァイオレットという子供の存在があることで、親としての子供を見る目線というのが強く反映されているからだろう
新感覚アトラクション・ホラーから子供の成長を描いた壮大な人間ドラマへと変貌を遂げたのだ
CREDIT
■監督・脚本・製作・出演:ジョン・クラシンスキー
■製作:マイケル・ベイ、アンドリュー・フォーム、ブラッド・フラ-
■出演:エミリー・ブラント、ミリセント・シモンズ、ノア・ジュプ、キリアン・マーフィ、ジャイモン・フンスー
■北米公開:2021年5月28日 ■原題:A Quiet Place: Part II
■配給:東和ピクチャーズ
■コピーライト:(C) 2021 Paramount Pictures. All rights reserved.
■公式サイト:https://quietplace.jp/
■公式Twitter:@Quietplace_JP
点数 85
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