作品情報
2018年8月16日、惜しくもこの世をさってしまった「ソウルの女王」アレサ・フランクリン(1942-2018)。1972年1月13日、14日、ロサンゼルスのニュー・テンプル・ミッショナリー・バプティスト教会で行われたライブを収録したライブ・アルバム「AMAZING GRACE」は、300万枚以上の販売を記録し大ヒット。史上最高のゴスペル・アルバムとして今も尚輝き続けている。その感動的な夜が遂に映像で蘇る。コーネル・デュプリー(ギター)、チャック・レイニー(ベース)、バーナード・パーディー(ドラム)らに加えサザン・カリフォルニア・コミュニティ聖歌隊をバックに、アレサが自らのルーツである“ゴスペル”を感動的に歌い上げた今や伝説となっているこのライブは、実はドキュメンタリー映画としても撮影されていた。撮影したのは、映画『愛と哀しみの果て』で知られアカデミー賞を受賞しているシドニー・ポラック。アルバム発売の翌年に公開される予定だったが、カットの始めと終わりのカチンコがなかったために音と映像をシンクロさせることができないというトラブルに見舞われ、未完のまま頓挫することに。しかしいま、長年の月日が経てテクノロジーの発展も後押しし、遂に映画が完成。音楽史を塗り替えたといわれる幻のライブが、日本で初めてスクリーンに登場する!
『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』レビュー
アレサ・フランクリンといえば、「リスペクト」や「小さな願」といったポップな曲も多く発表しているだけに、今作を観ると、妙に宗教じみているなと思うかもしれないが、そもそものアレサの根底にあるのはゴスペル、そして神への信仰心といったものが基盤となったアーティストである。
今でこそ神への信仰という部分では、薄れていて、ひとつの音楽ジャンルとして独立しているかもしれいが、ソウル・ミュージック自体がブルースとゴスペルの融合したものである。
ソウル・ミュージックが誕生した1950年頃というのは、子供の頃からの信仰を受け継いだアーティストも多く、宗教色というのは、少し引きずりながらもニューサウンドを目指し、カウンターカルチャー、公民権運動の流れで、ろ過されていったように思える。
アレサと同じ、デトロイト出身のアーティストでいえば、ザ・スプリームスをモデルとした映画『スパークル』でも、親世代は信仰心が強く描かれているし、アレサの場合は、父のC・L・フランクリンは今作にも出演しているが、教会の牧師であり、母もゴスペル歌手という、両親の信仰心が特に強いという環境で育っているだけに、神への信仰心というのは、アレサからは切っても切り離せないものであるのだ。
そういったバックボーンを知ったうえで、今作を観ると、アレサはもちろん、周りの人々が思わず涙を流す理由というのも理解できるのではないだろうか。
信仰心がない人にとっても、アレサの歌のパワーには圧倒され、思わず涙を流してしまうかもしれない。
そんなアレサは惜しくも2018年に亡くなってしまった。その追悼の意味を込めてアメリカでは2018年に公開された映画。
今作の監督を務めたのは『いのちの紐』のシドニー・ポラックということも驚きだが、そんな有名監督が手掛けた作品が何故、長年公開できなかったというと、当時の技術では、映像と音声のシンクロが難しかったという理由だったらしく、技術の進歩によって、再編集が可能になったからだ。
今作はドキュメンタリー映画というよりも、ライブ映画に近いテイストとなっていて、ドキュメンタリー主体の映画であると、歌の上からナレーションやインタビュー映像なんかが被されていて、曲をちゃんと全部聴かせて欲しいという欲求を邪魔されるような作品がある中で、1曲1曲をしっかりと聴かせてくれるのだ。
今作は、コンサートホールではなく、一般的に教会を貸し切って行われただけあって、アーティストと観客の距離が非常に近い。あえて人々の咳払いや、聖歌隊の長時間でダルそうにしている表情なども、そのまま映画の一部とすることで、そこにいるかのような臨場感が味わえる。
残念ながらコロナ禍においてオンライン試写で鑑賞したものの、こういった作品は、ぜひ劇場で体感してもらいたいし、2021年は今作を皮切りに、他にもジェニファー・ハドソンが主演を務めたアレサの伝記映画『リスペクト』やシンシア・エリヴォがアレサを演じたミニドラマシリーズ『ジーニアス:アレサ』が日本のナショナル・ジオグラフィックでも6月29日から放送が開始される(スカパー!などに加入してない人はHuluのライブ視聴で観ることも可能だ)など、連続でアレサ関連作品を観ることができる年なのだ。
『リスペクト』の予告では、今作のコンサートのシーンも再現さけているだけに、そういった作品を数倍楽しむためにも、観ておいて損はないだろう。
映画『アメイジング・グレイス/アレサ・フランクリン』は5月28日(金)Bunkamuraル・シネマ他全国順次公開
点数 81
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