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この映画語らせて!ズバッと評論!!『ファーザー』アンソニー・ホプキンスに憑依してしまう認知症体験型スリラー!!

作品情報

日本でも橋爪功が主演し大絶賛された舞台の映画化が実現。
記憶と幻想の境界が崩れゆく父と、戸惑う娘。驚きと不安の中たどり着いた答えとはーー?主演は『羊たちの沈黙』でアカデミー賞®に輝いた、名優アンソニー・ホプキンス。メディアから「涙が止まらない」と絶賛され、オスカー前哨戦の賞も次々と獲得、遂に2度目の栄冠を手にした。父を支える娘には、『女王陛下のお気に入り』でアカデミー賞®を受賞したオリヴィア・コールマン。監督は、戯曲を手掛けたフロリアン・ゼレール。認知症の父親の視点で描くという画期的な表現を成し遂げた。何が現実で何が幻想か、観る者は主人公と共に、迷宮のようにスリリングな記憶と時間の混乱を体験する。父と娘のやり取りは、切ないけれどおかしく、いらだたしいのにいとおしい。迷い揺れる人間的な登場人物たちに自分自身を見出し、思いがけない結末に激しく心を揺さぶられる感動作。

『ファーザー』レビュー

第93回アカデミー賞において、大番狂わせといえば、今作の主演アンソニー・ホプキンスが主演男優賞を受賞したことである。

もともとは舞台劇であるが、その原作者フロリアン・ゼレール自身が監督を務めることで、舞台もフランスからイギリスに移す際に、アンソニー・ホプキンスを想像し、あてがきされた作品ということもあって、キャラクター名もアンソニーになっており、誕生日も年齢もアンソニー・ホプキンスと同じ1937年12月31日生れの設定になっている。

今作で描かれた認知症・アルツハイマーといったものは、過去にも『アリスのまま』『私の頭の中の消しゴム』という作品が話題となったが、家族の視点だったり、本人であっても、どこか俯瞰で見たような視点であったが、今作で描かれる認知症であるアンソニー本人の視点が恐ろしく鮮明に描かれている。

全体的にミステリー映画のように演出されはいるのだが、認知症を患っている者にとっては、これこそが見ている世界なのかもしれない。

今作の主な視点は2つ、それはアンソニーの視点と娘アンの視点。アンソニーは自分が認知症だとは思ってもおらず、周りにおかしな出来事が多発していると錯覚している。さっきまで娘だと思っていた人物が、次のシーンでは別人になったり、そのまた次のシーンでは、時間がとんでしまう。

『バニーレークは行方不明』や『バルカン超特急』『フライトプラン』のように、信じていたものが、急に消えてしまったり、周りも知らないと言い張って、実は妄想だったのではないかと錯覚させられてしまう「消失もの」というジャンルがあるが、今作はそういった作品のようなテイストで描かれている。

そう考えると、認知症患者の感情が急に高ぶったり、声を上げたくなってしまうのも理解できる。自分自身は正気でいるのに、周りの世界が崩れていってしまっているのだ。周りをそれを見て怖いと思うかもしれないが、一番怖いは本人なのだ。

ここまで認知症の視点を鮮明に描いた作品が今までにあっただろうか…認知症疑似体験映画だ。3Dにしたらアトラクション映画にでもできそうだ。

そこに娘アンの視点も入ってくる。アンにも自分の生活があって、父の言動や行動に不安や悲しみを感じないではいられないが、施設に入れるのも心苦しい。夫も不安がっている…介護の大変さや家族愛を扱っていながらもスリラー要素が入り混じる、独特の映画体験ができる作品と言っても過言ではない。

家族に認知症患者がいる人、介護職についている人は観るべき映画だ。

『ファーザー』
5月14日(金)、TOHOシネマズ シャンテ他 全国ロードショー
© NEW ZEALAND TRUST CORPORATION AS TRUSTEE FOR ELAROF CHANNEL FOUR TELEVISION
CORPORATION TRADEMARK FATHER LIMITED F COMME FILM CINÉ-@ ORANGE STUDIO 2020
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監督:フロリアン・ゼレール (長編監督一作目)
脚本:クリストファー・ハンプトン(『危険な関係』アカデミー賞脚色賞受賞)
フロリアン・ゼレール
原作:フロリアン・ゼレール(『Le Père』)
出演:アンソニー・ホプキンス(『羊たちの沈黙』アカデミー賞主演男優賞受賞)
   オリヴィア・コールマン(『女王陛下のお気に入り』アカデミー賞主演女優賞受賞)
   マーク・ゲイティス(「SHERLOCK/シャーロック」シリーズ)
イモージェン・プーツ( 『グリーンルーム』)
   ルーファス・シーウェル( 『ジュディ 虹の彼方に』)
   オリヴィア・ウィリアムズ( 『シックス・センス』)
2020/イギリス・フランス/英語/97分/カラー/スコープ/5.1ch/原題:THE FATHER/字幕翻訳:松浦美

配給:ショウゲート
公式サイト:thefather.jp

点数 88

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