初の映画本『発掘!未公開映画研究所』の出版が待たれる映画評論家・映画ライターのバフィーによる徹底アカデミー賞分析。
■作品賞
『ノマドランド』
『シカゴ7裁判』
『ミナリ』
『プロミシング・ヤング・ウーマン』
『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』
『ファーザー』
『ユダ・アンド・ザ・ブラック・メサイア』
『Mank/マンク』
そもそも配信系作品が数多くの賞にノミネートされても受賞できないのは何故なのだろうか…
今年は新型コロナウイルスの影響で配信と劇場作品の境界線があやふやになっていて、今回に関しては『シカゴ7裁判』や『サウンド・オブ・メタル ~聞こえるということ~』といった配信系作品でも、評論家や記者が選ぶ映画賞では受賞することも珍しくない。
単純に配信系の映画業界における地位自体が確立されてきたということや作品自体の質が上がってきているというのも考えられるだが、アカデミー賞のように身内が身内に送る賞の場合は、特に新型コロナウイルスによってエンタメ業界が壊滅状態の今、自分たちの仕事に直結する映画業界の産業、つまり基本として映画を映画館で観るということを衰退に追い込むような配信系作品を受賞させるだろうか…
FOXも買収し、より強力となったディズニー系列作品、傘下の作品に関わる業界人の方がまだまだ配信系の関係者より多い。何よりアカデミー会員の条件には10年以上映画業界に精通している者であるという点からも、新しい視点を取り入れようと会員数を増やしたとしても、配信系よりも映画会社と繋がっている人物の割合が圧倒的に多く、どちらに投票するのかという根底の部分はまだまだ変わらないし、映画館を救うには、劇場公開作品を擁護するという意見になっても何もおかしくない。
ならばノミネート自体しなければ良いのではないかということもあるのだが、特に近年は平等・公平を訴えているような状況で、それは難しい。
となるとノミネートはするが、受賞はさせない、できないというのが正しい見解である。
ノミネートはしておいて、それに勝つことで、まだまだ配信作品より劇場作品ということを結果によって世界に発信しているということだ。
俳優賞の場合は、映画業界同士の繋がりというより、俳優仲間として評価する意識が強いため、配信系であっても受賞する場合があるということ。
俳優賞以外の主要部門で配信系が受賞する日が来るとしたら、映画業界でのパワーバランスが崩れ去ろうとしている証拠でもある。コロナウイルスの影響を受けている今回に関しては、その分岐点となる可能性は0ではないが、まだまだ難しいのではないだろうか。
ここで勘違いしがちな点、「Disney+やHuluも配信系じゃないか!」と思うかもしれないが、Disney+、Hulu、HBO Maxは映画業界から派生した配信サービスであり、NetflixやApple TV+ように配信サービスから映画業界に足を突っ込んできた黒船軍団とは別格であるのだ。
そのため配信系でもDisney+、Hulu、HBO Maxは別格。映画業界の繋がりとしては、劇場公開作品とあまり変わらないながらも、現時点での問題点はオリジナル作品がまだまだ弱いという点であるが、今後強さを増してくるだろう。
さて、どの作品が作品賞を受賞するかという点だが、『ノマドランド』が有力である。
消去法として、配信系を排除していくと『ノマドランド』『ミナリ』『プロミシング・ヤング・ウーマン』『ファーザー』『ユダ・アンド・ザ・ブラック・メサイア』の5作となるが、『ユダ・アンド・ザ・ブラック・メサイア』の場合は劇場公開作品ではあるが、HBO Maxでも同時配信されたことで、ユーザーとしては嬉しいかもしれないが、映画業界からは様々な反感をかっていて、実際にこのスタイルは2022年以降しない方向で考えているとも発表している。
『プロミシング・ヤング・ウーマン』はフェミニズム、ジェンダーという点では強い、『ミナリ』はアジア系作品ということで人種問題という点では強い…しかし、どちらも一方のメッセージ性でしかない。アジア人へのヘイトクライムがなければ『ファーザー』も可能性はあった…
となると、監督賞の有力候補クロエ・ジャオと理由がカブる部分があるのだが、受賞することで人種・ジェンダーに関して公平であると、より多くのメッセージを届けられるという理由である。
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