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発掘!未公開映画研究所【インド映画編】『あなたを夢みて』イタすぎる妄想女子のストーカー・ラブコメディ!!

発掘!未公開映画研究所【インド映画編】『あなたを夢みて』イタすぎる妄想女子のストーカー・ラブコメディ!!

作品情報

夢の中で映画の主人公になったつもりの妄想を続けるミーナクシー。そんな娘の姿に耐えかねた母は、新聞広告で結婚相手の募集をすることに。実際には変わり者のミーナクシーだが、その広告には、家庭的など魅力的なワードが並んでいたこともなり、毎日のように結婚希望者が家に訪れるようになってしまう。一方、自立した女性になりたい、自分の相手は自分で決めたいとミーナクシーは、美術大学の就職面接を受け、大学の司書として働くことになる。そんな中、学生として通っていたミステリアスで独特の香りを放つスーリアに一目惚れしてしまう。司書ということもあり、個人情報を手に入れ、香りを頼りにスーリアを調べようとするミーナクシー。ミーナクシーの一方通行な妄想恋愛は成就するのだろうか…

監督・脚本・出演

監督:『幸せをつかむダイエット』サチン・クンダルカル

脚本:

出演:

『ポンペイ・トーキーズ』『恋する輪廻 オーム・シャンティ・オーム』ラーニー・ムケルジー

『シャバーナーと呼ばれる女』プリトヴィラージ・スクマラン

『トゥンバード』アニータ・デイト

発掘!未公開映画研究所とは?

宗教性の問題、出演者の知名度、お笑いの感覚の違い…などなどの理由によって、日本では公開にいたらない作品が多く存在する。アカデミー賞にノミネートされている作品でも未公開作品は多い。

それもそうだろう、逆にアメリカやフランスで日本の映画が何でも公開されていると言えばそんなわけもなく、全体的に見て1割にも満たないだろう。

日本はそんな中でも割と海外の作品を公開している珍しい国であって、そんな中でもやっぱり公開されない映画というのは山のように存在する。

「発掘!未公開映画研究所」はそんな映画を発掘していくというもので、その中でも更に知名度が低いものを扱っていくつもりだが、必ずしも良作ばかりではない、中には内容がひど過ぎて公開できなかったものもあるのでご注意を!!

そして…未公開映画の宝庫でもある国を見つけてしまった。それはインド映画である。年間1900本前後の映画が公開されているインド。そんな状況にも関わらず、日本で公開されるのは20~30本といったところ。

このペースでは年間で1000本以上の未公開作品が蓄積されていることになるのだ。Netflixの普及によって、劇場公開されていないものやソフト化されていない作品が大量に観られるようになったものの、まだまだ足りない!!

そんなインド映画の魅力を伝え、もっと日本でのインド映画の開枠が広がることを願いつつ、未公開映画研究所のスピンオフ企画として「インド映画」を積極的に紹介していこうと思います。

今回紹介するのは『あなたを夢みて』

短評

MTVやニコロデオン、パラマウントを参加にもつヴァイアコムとインドのケーブル局TV18の業務提携によって誕生したヴァイアコム18モーション・ピクチャーズ製作の映画である。

ヴァイアコム18モーション・ピクチャーズは、2000年代後半~現在にかけて多国籍な映画要素を取り入れはじめたインド映画産業の基盤を作ってきた製作会社のひとつであり、今作も世界市場を視野に入れたテイストとなっている。

ミッション・マンガル 崖っぷちチームの火星打上げ計画』の批評の際にも書いたように、近年インド映画は他国の映画をリメイクしたり、オマージュすることで、独自のスタイルに変換してきていて、今作も王道のガールズ・ムービーでありながら、その中には韓国や日本映画のテイストまで感じられる。

いわゆる「キラキラ映画」を目指した作品なのだ。そのため、全てのキャラクターが漫画的であり、とにかくコミカルな演出が多い割に、何かのメタファーのようなエロティックなシーンもあったりと、ターゲットしているのは、20~30代。

アラサー、アラフォーのラブコメという点では『タルジャの春』のような韓国ドラマなどの影響も強いかもしれない。

主人公ミーナクシーの妄想が基盤となった、ストーリー展開ということもあって、どこまでが妄想でどこまでが現実かがわからなくなってくる。

ファンキーな祖母、漫画的な表情をする弟、クセの強すぎる変人同僚マイナーといった決して交わらない個性が渦巻いた作品ながら、そのミスマッチさが一周回って奇妙な世界観を構築しているのだ。

ストーカー・コメディというジャンルがあるのかは不明だが、女性が一目惚れをした相手に付きまとう行為をコミカルに描いたという点では、ラジー賞を受賞したサンドラ・ブロック主演の『ウルトラ I LOVE YOU』という作品があった。

『ウルトラ I LOVE YOU』に関しては、まだ相手が存在を受け止めていたのだが、今作に関しては、ミーナクシーと一目惚れの相手スーリアとの間に会話といえる会話がほとんどなく、完全にミーナクシーの一方通行である。

しかもミーナクシーの行為は、大学の司書という立場を利用しての個人情報の悪用、住居侵入、窃盗、自宅の自転車置き場に身を潜め長時間監視する迷惑極まりないストーカー行為と犯罪スレスレどころか完全にアウト。

細かい年齢描写はないが、設定的におそらくアラサー女子であり、母親が耐えかねて新聞広告で結婚相手を募集したことをきっかけに出合ったマダブとも三角関係になるどころか、相手にもされないまま、家族間や親戚間で婚約と結婚だけがひとり歩きしていく。

インドでは、まだまだ親が結婚相手を決める風習が残っており、今作の舞台となっているような田舎では特にそうであり、未だに新聞広告に2~3ページに上って掲載されている。

そんな風習に反発して、女性が社会的に独立しようして就職するミーナクシーからはフェミニズム要素もみえてくるものの、結局は自分で相手を選ぶという行為は達成できたものの、古い考えの枠組みに収まってしまっていて、メッセージ性は薄いが、ミーナクシーのズレた性格を考えると妙に納得できてしまう。

マタブは、イケメンとは言えないかもしれないが、平均的なスタイルで常識人、優しさもあり、経済力もあるという理想的な夫のようなキャラクターではあるが、そんなことは目にも入らず、とにかくほとんど会話も成立したことがないスーリアを一筋に追いかけ、臭いがついたものを嗅ぎまわる姿は完全に狂人である。

ミーナクシーはスーリアに存在すら意識されていないのではないかと思わせるのだが、その点は上映時間の2時間を過ぎた後の急展開で回収される。なかなかな強引展開と、次に待ち受ける更なる強引展開、強引展開の嵐で、この一連の出来事も全て妄想だったというオチに向かうのかとも錯覚させられてしまうほどだ。

今作はミュージカル、アクション、サスペンスなどの様々な要素をミックスした「マサラ映画」というジャンルではないし、世界市場をある程度意識していることもあって、なかなか設定は屈折しているものの、シンプルなラブコメとしてのアプローチが強い。

ただ時間が長い…このテイストの作品は90分前後というのが相場なだけに、単純にラブコメとして観ても2時間半というのはキツい部分があるし、インド映画=時間が長いということも特徴といえば、そうかもしれないが、世界市場を考えているのであれば、もう少しどうにかしてもらいたいところ。

マサラ映画であれば、アクション何分、サスペンス何分…と尺がわかれているだけに、2時間半というのもわからなくはないがミュージカル色のあるラブコメを2時間半というのは、逆に勇気があるのかもしれない。

しかし、今作が公開されたのは2012年。近年では2時間を切る作品も多くなってきただけに、丁度、過渡期に位置する作品だといえるかもしれない。2010年代の作品としては2時間半も、奮闘した方である。ただ…キツい。

ミーナクシーの妄想という設定を存分に利用したミュージカル・シーンは多種多彩であり、古典的なものもあれば、ダンスミュージックを意識したような現代的なもや、コミカルで趣味の悪いものまであって、どの曲も頭から離れなくなってしまう。

ミーナクシーを演じるラーニー・ムケルジーが背が低く、少しお腹がぽっこりしている点からもコミカルなのかセクシーなのか、境界線を行ったり来たりで、かなりの中毒性だ

『あなたを夢みて』はNetflixで現在配信中

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