作品情報
『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のジェームズ・ガンが製作を務め、SF、ホラー、サスペンス、ドラマなどさまざまなジャンルをミックスして描いた一作。母親になる夢を抱いているものの、なかなか子どもができずに悩んでいたトーリのもとに、ある時、謎めいた赤ちゃんがやってくる。赤ちゃんはブランドンと名づけられ、聡明で才能にあふれ、好奇心旺盛な子どもへと成長。トーリと夫カイルにとっても、かけがえのない存在になっていく。しかし、12歳になったブランドンは、普通の人にはない異常な力を発揮し始め、やがて米カンザス州ブライトバーンの町をかつてない恐怖に陥れていく。脚本はジェームズ・ガンのいとこのマーク・ガンと弟のブライアン・ガン。監督は『インバージョン 転移』のデビッド・ヤロベスキー。出演は『ピッチ・パーフェクト』『パワーレンジャー』シリーズのエリザベス・バンクス、『アフター・アース』『ローガン・ラッキー』のデビッド・デンマン、ジャクソン・A・ダンなど
『ブライトバーン 恐怖の拡散者 』レビュー
良くも悪くもスーパーマンへのオマージュでしかない…
スーパーマンが悪に目覚めてしまったら…
Disney+での配信が決定しているマーベルで言う『WHAT IF…』みたく「もしも」ストーリーのようなのだが、実はスーパーマンがダークサイドにおちてしまうという作品は、DCコミックスでも何度か描かれていて、2019年の今となっては何も目新しくはない。
田舎の農場を営む子供のいない夫婦のもとに、宇宙からやってきた赤ん坊を育てることになったという設定が、まんまスーパーマンの設定であって、スーパーマンの場合はスモールヴィルという町だったための「S」という文字を使うようになったことと、この作品でブランドンが育った町ブライトバーンもしくは自分の名前ブランドン・ブレイヤーの「BB」という点も似ている。
ひとつひとつのシーン、例えば思わぬことで超怪力が発動したり、芝刈り機に手を突っ込んだりと本家「スーパーマン」やヒーローものでよく観てきたシーンが盛りだくさん。今新作の「スーパーマン」映画でも公開しているなら、「この時期にこれをぶつけたきたか!!」という驚きもあるが、今この内容でやられてもいまいち盛り上がりに欠けてしまう。
この映画で足りないのは「愛」
ドラマシリーズの『ヤング・スーパーマン』が人格者として作り上げられていくとこでスーパーマンになるまでの成長過程を描いていた。スーパーマンの人格の良さは生まれつきヒーロー的だったわけではなく、ケント家の人々や周りの友人や仲間に恵まれていたことだということを描いていて、ドラマ内でもダークサイドに陥りかけるエピソードはあった。しかし、それを留まらせたり、浄化したりするのは「愛」というわけだ。この「愛」は恋愛だったり、人間愛だったり、家族愛だったり…と特定のものではない。しかし、この映画に欠けているものがあるとしたらそれは「愛」を描いていないことだ。
4、5歳ならまだまだ物事の分別がつかないとは思うから、あるきっかけでどちらにでもなってしまうというなら分かるのだが、人を殺す躊躇いや人が死ぬときの気持ち悪さ、逆にその快感をおぼえるのだとしても、それが突然12歳にして覚醒したというのは考えにくい。
12歳の反抗期で突然、覚醒したという設定にしているが、言ってみれば12歳までは一緒に暮らしていた育ての親とその親戚なのにも関わらず、ブライトンの家族に対する思いというものがいまいち見えてこない。
残酷なことが好きであれば、12歳になるまでに動物を殺して楽しんでいたり、少なからず予兆があったはずだと思う。だからこの映画では親の育て方にも問題があった様にも感じさせられる。
12歳で突然自分の意思とは関係なく、残酷なことも平気になって、人も殺す躊躇いもないという設定であれば、自分の意思とは関係なく行動してしまうが12歳まで育ててきてもらった、育ての親との思い出や触れてきた優しさがフラッシュバックして、自分の中では抑えたいと思っているけど、自分の内なる部分に秘めている何かが暴れだそうとしているという設定にした方がよかったと思う。
その引かれてしまったトリガーを元に戻すのが、親としての子供に対する「愛」ではないだろうか。ブランドンが完全に覚醒するまでは少しながらエリザベス・バンクス演じるトーリがみせてはいたが、覚醒後は恐怖の方が勝ってしまい、どう子供に正気を戻させるかというより、宇宙からやって来たモンスターとして吹っ切ってしまって、どうしたら殺せるかという方向に思考が向いてしまっていることには正直、ガッカリだった。
両親の心の切替えの早さには脱帽
いよいよ自分の子供が実はヤバい奴だと知ったときに、とる親の行動が両親そろって酷いし、明らかに今までの出来事がブライトンの仕業だと知っても、親だったら仮にも子供を殺すことを躊躇うと思う。
実の親子ではないとしても、最後までブライトンを信じてほしかった。何故ならスーパーマンのケイト夫妻なら、間違いなくそうするからだ。スーパーマンのオマージュであれば、そこまっでやってのシニカルなラストでも良かったと思う。
大切な人を殺さないといけない、特に子供というプロットは代表的な作品として『オーメン』がある。自分の子供が悪魔の子となると知ってしまっても、やっぱり自分が育ててきた子供は殺せないという葛藤を描いているから、『オーメン』は傑作なのであって、ダミアンを悪魔の子だから、躊躇わずに銃で撃ちました…「だって悪魔だから」ってラストなら観ている人から共感を得ることはできないはずだ。
この作品はスーパーマンの育て方を間違えたら、子供の教育には不向きの人間のもとに拾われたとしたら…という問いにもなっている。ケント夫妻だったら、どうしていただろうと思って観るとそれが良く分かると思う。
スーパーマンのオマージュとして、ひとつひとつの描写をホラー的演出にしたことで辛うじてB級ホラーにはなっているのだが、スーパーマンを意識させすぎてしまっていることが良くも悪くもこの作品のハードルを上げてしまっていると言ってもいいだろう。
続編への伏線はあくまでお遊び的演出
劇中でもブライトンが乗ってきた宇宙船は複数目撃されていて、『ウォーキング・デッド』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』のマイケル・ルーカーが都市伝説チャンネルのようなもので紹介するシーンがあるため、続編は作れないことはないだろうが、単にブランドンをモンスターの様に描くのであれば、観たいとはあまり思わないが、あるきっかけで正気に戻ったブランドンが親や人を大量に殺したというとてつもない罪悪感と闘うというものなら観てみたい。
続編企画がある映画ではないから、あくまでヒーロー映画の伏線パロディ的演出だろう。
点数 60点
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