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この映画語らせて!ズバッと評論!!『ジョーカー』バットマンのヴィランだからこそできた現実問題の投影!!

作品情報

「バットマン」の悪役として広く知られるジョーカーの誕生秘話を、ホアキン・フェニックス主演&トッド・フィリップス監督で映画化。道化師のメイクを施し、恐るべき狂気で人々を恐怖に陥れる悪のカリスマが、いかにして誕生したのか。原作のDCコミックスにはない映画オリジナルのストーリーで描く。「どんな時でも笑顔で人々を楽しませなさい」という母の言葉を胸に、大都会で大道芸人として生きるアーサー。しかし、コメディアンとして世界に笑顔を届けようとしていたはずのひとりの男は、やがて狂気あふれる悪へと変貌していく。これまでジャック・ニコルソン、ヒース・レジャー、ジャレット・レトが演じてきたジョーカーを、 『ザ・マスター』『ドント・ウォーリー』のホアキン・フェニックスが新たに演じ、名優ロバート・デ・ニーロ、『ワウンズ: 呪われたメッセージ』『デッドプール2』のサジー・ビーツが共演。「ハングオーバー!」シリーズなどコメディ作品で手腕を発揮してきたトッド・フィリップスがメガホンをとった。第79回ベネチア国際映画祭のコンペティション部門に出品され、DCコミックスの映画化作品としては史上初めて、最高賞の金獅子賞を受賞した。

『ジョーカー 』レビュー

アメコミ映画っぽくないというのは間違いで、これこそDCっぽいアメコミ映画

アメコミ映画っぽくないと言う人も多いのだが、DCに限っては、これはこれで実にアメコミっぽい映画であるのだ。

アメコミの原作自体が好きで特に多くの作品を読んだことのある人なら解ると思うがマーベルもDCもヒーローものを扱っていて、スピンオフとして単独のキャラクターにスポットが当てられることは多い。

マーベルも『パニッシャー』を比較的、ダークな作品として扱っているが、あくまで最終的な着地点としてはアクション映画となっている。

マーベルと比べるとDCの作品は、その中でもより闇の部分を追求することが多く、特にバットマンのヴィランはスーパーマンやワンダーウーマン、グリーンランタン、アクアマンなどの宇宙人や神と言ったヴィランと違って、元々は人間であったが、何かのきっかけで精神異常者的ヴィランに変貌した者が多く、日常的な闇をキャラクターに投影するにはうってつけのチョイスなのだ。

またバットマンの世界観も犯罪がはびこった腐敗した街「ゴッサムシティ」が舞台ということで、犯罪や汚職、政治、格差といったテーマを扱っており、現実世界に一番近い存在であるため、ジャスティス・リーグとの空気感の違いというのは『レゴバットマン ザ・ムービー』『レゴムービー2』でもたびたびネタにされている。

そんな「ゴッサムシティ」に焦点を当てたのがドラマ『ゴッサム』

『ゴッサム』もバットマン自体には焦点を当てておらず、あくまで「犯罪」をテーマとしている。

新レーベル映画版DCダーク第1弾

DCが直球ヒーローものではマーベルに勝てないと悟って作ったのが『マン・オブ・スティール』『ジャスティス・リーグ』におけるDCエクステンデッド・ユニバースとは異なるDCコミックス映画における新レーベル「DCダーク

その第1弾がこの映画『ジョーカー』ということだ。

ここぞとばかり人間や世間の闇が作品に注入されても違和感がないキャラクターとして選ばれるべくして選ばれたヴィランだと言えるだろう。

もともとは『スーサイド・スクワッド』でジャレッド・レトが演じたジョーカーを基盤とした『スーサイド・スクワッド』のスピンオフとして浮上した企画であったため、当然ながらジャレッド・レトがその時はジョーカーを演じる予定であったし、この時点ではDCエクステンデッド・ユニバースの拡張であったと思われる。しかし、独立作品とした背景には、マーベルの成功があり、いくら追い抜こうとしても追い抜けない現実から、DCならではのことをしようとしたときにこの『ジョーカー』の企画がスタートしたのだろう。

差別化を逆手にとったかのように闇!闇!闇!!ここまで来るとアーサーのどん底設定が楽しくなるぐらいだ。監督のドット・フィリップスと脚本のスコット・シルバーもこの設定を逆手にとって楽しんだのではないだろうか。

そこに加わったのがホアキン・フェニックスというクセ者俳優の怪演。

ホアキン・フェニックスがキャスティングされたと知ったとき、明らかにヒーロー路線のスピンオフでないことは分かってしまった。

ホアキン・フェニックスなんてヒーロー映画向きではない俳優だからだ。

バットマンのヴィランだからこそできた現実問題の投影

舞台はゴッサムシティ、のちのバットマンとなるブルースは登場すると言っても、見事なまでに現実社会の闇が投影されていながら、バットマンの世界観をフルに活用している点はさすがドッド・フィリップ、そしてさすが「バットマン」という作品だと思わされた。貧困層の抱える抜け出せない負の連鎖や障害を抱える者への差別、現実と幻覚との境が分からなくなる精神状態を投影して、更にもの凄い違和感を残すことに対して、違和感がないメジャーアメコミ作品なんてバットマンぐらいじゃないだろうか。

評価されている点として、『タクシードライバー』と『キング・オブ・コメディ』というマーティン・スコセッシ作品へのオマージュ・アピールが挙げられているし、ロバート・デニーロが出演しているから、どうしてもそう見えてしまいがちなのだが、個人的にはやり過ぎだと思った。あくまで分からない程度のオマージュに抑えていて、何となくわかるよ的なノリならいいのだが、明らかに影響されてますし、「マネしています」というのを表に出し過ぎていることに関しては、いかがなものかと思うし、作品自体のもつオリジナリティが薄れてしまっている気がする。

そこに頼らなくても重圧のある作品に仕上げられたと思うだけに、評価する人もいるが個人的には残念な点である。

実はマーティン・スコセッシ自体が監督候補にも挙がっていたし、当初は製作に関わる予定だったとされている。スコセッシ作品のオマージュは背後にスコセッシの影があったから、「スコセッシなら、こうしただろう」という考えの元に製作されたからこその、スコセッシっぽさなのかもしれない。そうだとすると若手にプレッシャー与えるんじゃないよ!!って言いたくなるが、実際のところはどうなのだろうか。

何にしろ、スコセッシが関わりをもったことは間違いないため、「マーベルは映画じゃない!」と言ったスコセッシの腹の内がこの映画を観ればわかると言えるだろう。

強烈な存在感を残したDCダーク第1弾だが、第2弾はどうするのだろうか。個人的にスーパーマンの出ないレックス・ルーサーっていうのもアリな気がするし、ドラマ版が好調でDCユニバースに融合された『ウォッチメン』の誰かでも成り立つと思うし『アメリカン・ヴァンパイア』とかもいいと思う。

点数 85点

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