作品情報
『ダンサー・イン・ザ・ダーク』『ニンフォマニアック』の鬼才ラース・フォン・トリアーが、理性と狂気をあわせ持つシリアルキラーの内なる葛藤と欲望を過激描写の連続で描いたサイコスリラー。1970年代、ワシントン州。建築家を夢見るハンサムな独身の技師ジャックは、ある出来事をきっかけに、アートを創作するかのように殺人を繰り返すように。そんな彼が「ジャックの家」を建てるまでの12年間の軌跡を、5つのエピソードを通して描き出す。殺人鬼ジャックを『クラッシュ』のマット・ディロン、第1の被害者を『キル・ビル』のユマ・サーマン、謎の男バージを『ベルリン・天使の詩』のブルーノ・ガンツがそれぞれ演じる。カンヌ国際映画祭アウト・オブ・コンペティション部門で上映された際はあまりの過激さに賛否両論を巻き起こし、アメリカでは修正版のみ正式上映が許可されるなど物議を醸した。日本では無修正完全ノーカット版をR18+指定で上映。
『ハウス・ジャック・ビルド』レビュー
悪趣味なアートにハマってしまったある男
6月に公開された作品だが、近くの映画館で遅れて先週公開になったため、少し遅いレビューとなる。
『マンダレイ』『メランコリア』などで知られる鬼才ラース・フォン・トリアーの新作は、サイコパス・ジャックの12年間を描いた作品。
ラース・フォン・トリアー作品を観ている人にとっては、単にサイコパスを扱った作品ではないことは言うまでもないが、今回はカンヌ映画祭で途中退場者を出した問題作(いつものことなんだけど)。しかも日本はアメリカで公開された修正版ではなく、何故かノーカット版が公開された。
ひとり暮らしのジャックは建築家を夢見ている~という設定だが、夢見ているような歳でもないし、実際何の仕事で生計を立てているのかが不明。そんなジャックがある日ユマ・サーマン演じる女性の車が故障して、困っていたところを助けたのだが、その女性が自分勝手で傲慢な態度でジャックを罵倒するという、なかなかのくせ者。態度と言動に我慢できなくなったジャックは衝動的にその女性を殺害してしまう。
この出来事がトリガーとなって、ジャックの中に潜んでいた殺人衝動が解放されてしまうのと同時に死体を絵画や芸術作品に例えることで一種のアートとして楽しむようになってしまう。潔癖症だったのがそえでなくなってしまうほどに没頭しはじめる。
しかし、ジャックは殺人に慣れているわけではない。殺したくてもどうしていいかわからないというモヤモヤを抱えながら、次なるターゲットの家に堂々と訪問するものの、怪しまれて開けてくれないし、通行人に顔を見られてしまうという失態。そこで諦めればいいのに、怪しさMAXのトークで何とか家に入り、女性を殺害しようとするが上手くいかない。
前半はコミカルに、後半は狂気的に
潔癖症のジャックは「あそこに血のしみがあるかもしれない」「もしかしたら机の脚の下にシミがあるかもしれない」と殺人現場を行ったり来たりしているうちに警官がやってきて顔を見られてしまう。ただ、ジャックはそれよりも「どこかにシミを残していないだろうか」ということが気になって仕方がないという、少しコミカルなテイストで前半の2エピソードは描かれている。
ここで「なんだ、今回コメディテイストのゆるい映画なんだ…」と油断してしまった人も多いのではないだろうか、徐々にラース・フォン・トリアーの狂気性が現れてくることになる。
子どもだろうが容赦なく殺すジャック。死体を改造したり、並べて写真を撮ったりと悪趣味極まりない!!
そして人を殺すことに慣れてきたジャックの暴走はいつ止まるのだろうか…実はジャックというキャラクターはラース・フォン・トリアー自身が言っている様に、ラース・フォン・トリアーの黒い部分の分身とも言えるキャラクターとして構築されており、ところどころに自虐ネタや今まで世間からの批判に対して、遠回しに反論している様な作風になっていて、ラースの過去作の映像まで飛び出す始末。
そして所々に現れるブルーノ・ガンツが演じる謎の男。そんな謎の男に導かれてジャックはどこへ向かっていくのか…物語は衝撃のラストに向かっていき、エンディングで流れる レイ・チャールズの「Hit the Road Jack」が 皮肉にも歌詞が映画とシンクロしている。
ちょっと気になるところ…
この映画に登場する警察は無能すぎる。2人目の殺害の時点で怪しすぎるジャックを捕まえることができたはずだし、女性の切り取った胸をパトカーのフロントガラスに置かれていた際にもっと調べるべきだったと思う。
劇中にジャックが幼少期にアヒル?ガチョウ?の足をハサミで切るシーンがあるのだが、本当にやっているとしたら動物愛護団体が黙っていないのではないだろうか…
点数 72点
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