作品情報
『怪しい彼女』『王になった男』などで知られる韓国の演技派女優シム・ウンギョンと『孤狼の血』『ユリゴコロ』の松坂桃李がダブル主演を務める社会派サスペンス。東京新聞記者・望月衣塑子の同名ベストセラーを原案に、若き新聞記者とエリート官僚の対峙と葛藤をオリジナルストーリーで描き出す。東都新聞の記者・吉岡エリカのもとに、医療系大学新設計画に関する極秘情報が匿名FAXで届く。日本人の父と韓国人の母のもとアメリカで育ち、強い思いを秘めて日本の新聞社で働く彼女は、真相を突き止めるべく調査に乗り出す。一方、内閣情報調査室の官僚・杉原は、現政権に不都合なニュースをコントロールする任務に葛藤していた。そんなある日、杉原は尊敬するかつての上司・神崎と久々に再会するが、神崎はその数日後に投身自殺をしてしまう。真実に迫ろうともがく吉岡と、政権の暗部に気づき選択を迫られる杉原。そんな2人の人生が交差し、ある事実が明らかになる。監督は『デイアンドナイト』の藤井道人。
『新聞記者』レビュー
日本政府のタブーをえぐる!フィクションとは言い難いリアリティ
「内閣情報調査室」通称”内調”
雑誌、メディア、SNS、ネット掲示板などの情報を管理し圧力による情報操作を促す組織と言われているが、実際のところは謎につつまれている。
良くも悪くも情報が飛び交う現代社会の情報そのものが操作されているという都市伝説でありながら、そうとも言いきれない日本が抱える闇の部分をえぐりだす問題作。
実際に新聞記者でもあり、映画の劇中番組にも出演している望月衣塑子原作の小説の映画化ということでフィクションでありながらも説得力のあるリアリズムを追求している。
内調自体が闇に包まれているため、細かい描写はフィクション的な部分は少なからずあるものの、大まかな部分はその通りもしくは近しいものなのだろう。
情報操作によって、混乱を鎮静化させるのもまた別の意味で国を守るという行為、つまりは「知らなくていいことは知らないほうがいい」ということなのだが、そういった違和感に切り込んでいくジャーナリスト。取材していくうちに明かされていく真実と比例して重く伸し掛かる圧力や妨害。
家族と正義を天秤にかけさせられる圧力!圧力!圧力!
シム・ウンギョン演じる吉岡は圧力だろうが自分の立ち位置が脅かされるかもしれないという恐怖だろうがものともせずに、とにかく真実を求める守るものがないジャーナリストで新聞社にとっても少しめんどくさい存在だが彼女の熱意は周りを巻き込んでいく。
それとは対照的に描かれるのが松坂桃李演じる杉原。杉原には妊娠中の妻がいて、これから何かと家族にお金もかかるだろうし、単純に信念や正義感で動ける状態ではない。しかし、謎を残し自殺したかつての上司の死因を探ることで知ってはいけない真実を知ってしまうがそこにのしかかるのはとてつもなく大きな圧力と胃が痛くなるような葛藤。
2つの異なる状況下に置かれながらも目的は次第に重なっていくが、やはり頭から離れないのは家族の存在。記事に関わることで全てを失うだろうという覚悟ができていないが正義感はある…極限の状況で頭おかしくなりそう!
そして、やらかしてしまった後に投げかけられた、「救い」という名の圧力…今からまだ戻れるかもしれないという絶望の中の光…杉原が下す決断とは…
とにかく緊張感漂う作品で後半は杉原の心情を考えると、終始胃が痛くなりそうだった。ラストも絶妙な気持ち悪さを残す。
忘れてはいけないのは、これはあくまで”フィクション”ということ。
実際の事件をモデルにしていることもあって、裏ではこんなこと…普通にありそうと思ってしまうのだが、そのこと自体もこの映画によって発信された”情報”を信じてしまっているということ。極端なことを言えばこの映画自体も日本政府に対する批判、プロパガンダとも考えられる。
何が言いたいかというと、何が真実で何が創作なのかを答えが出なくても、自分なりの見解がある程度言える人間になることがこの情報社会を生き抜く現代人に必要なことだということをこの映画は暗示しているのだ。
なぜシム・ウンギョンなのか?
この映画の主人公である吉岡エリカは父が日本人で母が韓国人、更にアメリカで育ったという経歴から日本語たどたどしい問題は辛うじてパスされているのだが、どうしてシム・ウンギョンをキャスティングする必要があったのだろうか。
望月衣塑子がモデルなのだから、別にそんな無理やりな設定を持ち込む意味もそれほどないと思う。
決してシム・ウンギョンという女優が悪いというわけではなく、キャスティングの意図がよくわからない。
日本人の演技派女優をキャスティングした方がよかったのではないだろうか。
点数 88点
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