作品情報
『十二人の死にたい子どもたち』『人魚の眠る家』の堤幸彦監督と『決算!忠臣蔵』『一度死んでみた』の堤真一が初タッグを組み、雫井脩介の同名ベストセラー小説を映画化したサスペンスドラマ。一級建築士の石川一登と校正者の妻・貴代美は、高校生の息子・規士や中学生の娘・雅とともに、スタイリッシュな高級邸宅で平和に暮らしていた。規士は怪我でサッカー部を辞めて以来、遊び仲間が増え無断外泊することが多くなっていた。ある日、規士が家を出たきり帰ってこなくなり、連絡すら途絶えてしまう。やがて、規士の同級生が殺害されたニュースが流れる。警察によると、規士が事件に関与している可能性が高いという。行方不明となっているのは3人で、そのうち犯人と見られる逃走中の少年は2人。規士が犯人なのか被害者なのかわからない中、犯人であっても息子に生きていてほしい貴代美と、被害者であっても彼の無実を信じたい一登だったが……。貴代美役に『マチネの終わりに』『サイレント・トーキョー』の石田ゆり子。出演作が相次いで公開されている若手女優・清原果耶も娘役で出演。『ゴーストマスター』『ダンスウィズミー』の三浦貴大、『東京喰種 トーキョーグール【S】』『一度死んでみた』の松田翔太などが脇を固める。『八日目の蝉』の奥寺佐渡子が脚本を手がけた。
『望み』レビュー
絵に描いたような理想の家族に起きた悲劇。どこの家庭でもある息子の反抗期だと思っていたら、思わぬ方向に向かっていくのだが、これは決して他人事ではないというのが怖いところだ。
子供がいたりすると、また見え方が違ってくるだろうし、堤幸彦はそういった作品が多い。『エイトレンジャー』や『20世紀少年』『トリック』といった悪ノリ企画映画ばかりが目立っていた頃と比べると、落ち着いたテイストになってきたのかと思うほどだ。
突然、帰ってこなくなった規士。テレビでは似たような年代の子供たちによる殺人事件が報道されている。ここでは、親としての「不安」が描かれる。世間としては、よくある事件で、はじめは関係ないと思っていた家族が、実はその事件に何等かのかたちで息子が関わっていると知っていくと同時に憶測や噂などが錯綜し、「不安」が現実のものとなっていく。
警察やマスコミも本格的に動き出したことで、まだ被害者とも加害者ともわかっていないはずなのにも関わらず、あたかも加害者であるように扱われることによって、家族の心情のグラデーションから枝分かれしていく、父親として、母親として、妹として、家族のそれぞれの「望み」を鮮明に描いている。
家族の想いとしては、規士に生きていてほしいというのは、嘘ではないが、生きているということは、加害者ということになる可能性が高い。
しかし、人を殺すような息子ではないと人間性を信じている。父はそれでも信じていたい。母は加害者であったとしても、とにかく生きていてほしい。一方、受験を控える妹は兄が加害者であった場合、進学が難しくなることに不安を覚える。加害者であった場合のその後の人生も本気で考えていかなければならない。
家族の中でも分かれるそれぞれの心境が巧妙に描かれていて、どちらに転んでも最悪という緊迫した状況が「あなたの家族の場合なら、どうしますか?」と問いかけられているように、常に突き刺さってくる。
テーマ性自体は、実は日本の低予算系インデペンデント映画で描かれるようなテーマであるのだが、テーマだけに頼って安っぽくなってしまうことが多かったりする。
今作の場合は「不安」から「望み」に変わり、その後「〇〇」に変わっていく、心が変化していくグラデーションを見事に表現できている。それは役者陣に救われている部分が大きいのだろう。
『人魚の眠る家』でも感じたが、子供の小さい頃の写真が映し出されるのは反則。子供がいる人にとったら、答えられない想いに襲われてしまう。
あとこれも『人魚の眠る家』に共通する部分なのだが、最近の堤作品は「家」や「建物」を印象的に撮る傾向にあって、ラストの映し方も『人魚の眠る家』そのまま。 正に今作は「家」が家族の象徴のひとつともされている。
はじめ観たとき、あまりに無表情で淡々とセリフを言う姿から、エキストラかと思ったほどの逆に凄く印象を残すのは、『ケータイ刑事 銭形雷』で主人公を演じた早織。捜査のために感情をコントロールしているかもしれないが、さすがにこんな警察はいないというか、不安定な心境の家族の元に訪問する場合は、心理的に不安を与えない人を選ぶはずだと思う。
何故こんなに無表情なのか…実はこのキャラクターも親族が殺されているなんていう過去がサプライズとしてあるのかと思ったら…なんでもないということで、理解に苦しむキャラクター配置でしかなかった。
点数 80
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