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この映画語らせて!ズバッと評論!!『行き止まりの世界に生まれて』何気なく取り始めたビデオがアメリカの問題を浮き彫りにしていく

この映画語らせて!ズバッと評論!!『行き止まりの世界に生まれて』何気なく取り始めたビデオがアメリカの問題を浮き彫りにしていく

作品情報

閉塞感に満ちた小さな町で必死にもがく若者3人の12年間を描き、第91回アカデミー賞長編ドキュメンタリー部門にノミネートされた作品。かつて栄えていた産業が衰退し、アメリカの繁栄から取り残された「ラストベルト(錆びついた工業地帯)」に位置するイリノイ州ロックフォード。キアー、ザック、ビンの3人は、それぞれ貧しく暴力的な家庭から逃れるようにスケートボードに熱中していく。スケート仲間は彼らにとって唯一の居場所であり、もうひとつの家族だった。そんな彼らも成長するにつれ様々な現実に直面し、少しずつ道を違えていく。低賃金の仕事を始めたキアー、父親になったザック、そして映画監督になったビン。幼い頃からスケートビデオを撮りためてきたビンのカメラは、明るく見える3人の悲惨な過去や葛藤、思わぬ一面を浮かび上がらせていく。そんな彼らの姿を通して、親子、男女、貧困、人種といった様々な分断を見つめ、アメリカの知られざる現実を映し出す。

『行き止まりの世界に生まれて 』レビュー

第91回アカデミー賞にノミネートされ、第71回エミー賞にもノミネートされたドキュメンタリーだが、何故テレビ番組やドラマのエミー賞にもノミネートされているかというと、アメリカではHuluでの配信作品だからだ。

ロックフォードを舞台に、3タイプの人物の視点で、現代社会が抱える根本的な問題である人種問題や暴力連鎖、貧困...などを浮き彫りにしている。
ロックフォードを舞台に描いていることではあっても、アメリカ以外の国、日本にも通じる部分は多くみられる。

例えばヤンキー同士が子供のままの感覚で10代で妊娠・結婚し、社会に無理に出され、限られた労働、生活環境の中で更に離婚したりして、負の連鎖から抜け出せなくなるということは、どこの国でもよくある話で、チラシやパンフレットを見てもトランプが~とか書いてあったりして、無理にアメリカの一部の現状のようにミスリードしているが、実はシチュエーションが違うだけで、現代社会に生きる私たちには、かなり身近に蔓延る問題なのだ。

映画やドラマでも音楽やスポーツを通して、社会問題を提示するということはされてきたが、その中でも貧富の差というのがあり、みんなが貧しいわけではないことが多いのに対して、ダンスやスケートは、貧しさや家庭環境で共通する部分が多い者が集まることが多い。

それを象徴するかのように、今作のベースとなる3人は、誰もが家庭環境に問題を抱えている。劇映画ではなく、ドキュメンタリーであるというのに、人種も白人、黒人、アジア系と見事に分かれたものだ。

今作の監督で出演者でもあるビンは、ゲームや番組など有名人となったプロスケーターのトニー・ホークに憧れて、スケートをはじめ、スケートビデオとして撮り始めた仲間内のホームビデオをのようなものが、ある時から共通性を持つ問題に触れていることに気づき、12年間を描いた1本のドキュメンタリー作品として完成させている。

そこに向かおうとして作られたものというよりは、撮っていたら、ある方向へと向かっていたというのがリアルに感じられるのだ。

ただ、今作の問題点としては、登場する3人、ビン、ザック、キアーのあくまで意見であるということ。ある部分までは、カメラや人の目を意識して喋ってはいないのだが、ある部分から、作品にしようと意図的に誘導されて真実の部分は見えなくされている感じがする。

個人的に気になったのが、ザックの奥さんで、のちに離婚してしまうニーナも登場し、その中でケンカするシーンが何度か映し出されるのところだ。
ザックはニーナに対して、子育てをしないで遊びに行っているという口論になり、どっちが嘘をついているのかがわからない。
その後もニーナがザックに殴られてアザになったところが映し出され、ザックに殴られたと言う。
これは、誰もがそうである様に、自分の都合の悪いことは話をしたがらない。カメラが回っていないときでも反射的に隠そうとする人間がカメラが回っているときに真実を語っているかというと疑問だ。

結局のところ、ケンカや暴力の理由もあやふやのままで、子供の頃に虐待を受けたから、暴力の連鎖でザックも暴力を振るうようになったという結論は、シンプル過ぎる気がしてならないのだ。

暴力は問題かもしれないが、自己防衛やあらゆる理由で仕方なく起きてしまうこともある。貧困からなるイラ立ちからなる暴力というのもあると思うが、いくつかの問題が全て環境によってつくられた人間性や閉ざされた人生の道筋によるものだという紐づけをするのは違うと思う。

ビンの編集が上手すぎるというのが、逆に仇となっており、スマートに結論に向かい過ぎているのではないかとも感じられる。

ビンは次回作として、シカゴの銃暴力についてのドキュメンタリーを製作中ということで、今後も人間の根本にある「暴力性」に目を向けていくのであろう。

今作の一番の良いところは、監督自身が問題を抱える一人であり、今作を映画として仕上げたことは、光の見えない未来に向かって生きていたザックやキアー、そして同じような境遇の人々に、ビンのように自分の努力次第で未来を切り開くことができるということを提示し、賞を受賞したことで証明してみせたことだ。

今作によって心が救われる人々は決して少なくないだろう。

点数 80

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