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この映画語らせて!ズバッと評論!!『喜劇 愛妻物語』自分に当てはまる部分があれば心に刺さるかもしれないが、俯瞰で観ると単調な観光映画

この映画語らせて!ズバッと評論!!『喜劇 愛妻物語』自分に当てはまる部分があれば心に刺さるかもしれないが、俯瞰で観ると単調な観光映画

作品情報

『百円の恋』の脚本家・足立紳が2016年に発表した自伝的小説「乳房に蚊」を、自ら脚本・監督を務めて映画化。売れない脚本家・豪太は、妻チカや娘アキと3人で暮らしている。倦怠期でセックスレスに悩む豪太はチカの機嫌を取ろうとするが、チカはろくな稼ぎのない夫に冷たい。そんなある日、豪太のもとに「ものすごい速さでうどんを打つ女子高生」の物語を脚本にするという話が舞い込む。豪太はこの企画を実現させるため、そしてあわよくば夫婦仲を取り戻すため、チカを説得して家族で香川県へ取材旅行に行くことに。しかし、取材対象の女子高生はすでに映画化が決まっていることが判明。出発早々、旅の目的を失ってしまう3人だったが……。夫・豪太を『決算!忠臣蔵』の濱田岳、妻・チカを『後妻業の女』の水川あさみ、娘・アキを『駅までの道をおしえて』の新津ちせがそれぞれ演じる。

『喜劇 愛妻物語』レビュー

観客の層を見ると、どうも昭和的な物語を想像したかのようなシニア層が目立ったが、今作をターゲットとするべきは30-40代である。「喜劇」とついてたり、漢字が並んでいるタイトルだと、どうも昭和の古典的な家族物語を想像してしまい、間違った客層を呼び込んでしまう。

60歳以降のシニア世代が俯瞰として観ると、少し笑える部分はあるかもしれないが、描いていることは、実に現代社会における、ある種の家族像を反映しているため、理解しにくい部分もあるのではないだろうか。

クズ夫というと、ギャンブルや暴力など様々なパターンがあるが、仕事がなくてもがんばっているかどうかによって、今作の印象は少し変わってくる。

監督でもある足立紳の実体験を反映させているのだが、根底にある妻が別れない理由というのは、子供のことはあるだろうし、年収50万円だとしても仕事への意欲を感じられていたからだという部分はあったと思うのだ

その証拠に、モデルとなっている実際の話では分からないが、あくまで劇中では、チカは「今の仕事を辞めて働け」ということをほとんど言わない。ということは、自分が家系を支えていて、生活苦であっても、夫には脚本や物づくりによって仕事に成功してほしい、つまり才能を認めているから支えられているのだ。

同じ大学の映研という繋がりもあって、作品を観る目や、それにかける精神的、肉体的な労力というのは、普通の人よりも理解しているという部分は、同じようにクリエイティブな職業で奮闘する男にとっては喜ぶべきところである。

だからこそ、仕事はしようとしているけど、上手くいかないという部分に軸を置いておくべきだったと思う。

努力が感じられなかったり、無気力、妻の作った料理に口を出すという行為がチカをイラ立たせるというのは、わからないでもないし、取材旅行といっても費用を出したり、宿を手配していたのは、映画を観る限りチカなのだ。それなのに…と考えるとチカの態度は仕方がないとも感じられる。

理不尽な怒りではなく、正当な怒りなのだ。

家事や育児もしている夫であれば、喜劇として観ることができるかもしれないが、妻任せにしている夫なら、チカの言葉は心に刺さるだろう。

今作はセックスレスをどう解消するかという部分を追求し過ぎていて、子供を目の前にして不倫もしようとするし、泥酔いの女性に手を出そうとする。結果的に未遂に終わるものの、性的な処理をできれば誰でも良いのかという印象さえ残してしまう。

子供の存在がなんとなく汚い部分をやんわりとさせてくれているのだが、収入がなくて、妻に支えてもらっているのにも関わらず、性的なことしか考えてないということを改めて考えると酷い夫である。

倦怠期といっても、生活や精神的な安定がない状況にある夫婦関係の中でのこともあり、一般的な家庭における倦怠期とは少し毛色が違う気もするのだ。

今作を観て自分に当てはまる部分があるのであれば、心に刺さるだろうし、当てはまらなくて、ただただ妻の罵声に耐えている人であれば、悲しくなってくる。自分たちと関係ないと、俯瞰で観れば「クスり」とは笑えるかもしれないが、それだと一定調和の香川県観光映画でしかない。

どの立場で観るかによって、かなり意見が分かれる映画である。

点数 78

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