作品情報
『パトリオット・ゲーム』の監督フィリップ・ノイスと『ミシシッピー・バーニング』の脚本家クリス・ジェロルモがタッグを組み、実在の事件をモチーフに描いたクライムサスペンス。裏社会に生きる女スミスは薬物所持の現場をFBIに押さえられ、捜査官パットナムから無罪放免の代わりに情報提供者になるよう要請される。パットナムは裕福な不動産開発業者の娘と結婚していたが、スミスに誘惑され関係を持ってしまう。出演はテレビシリーズ『ゲーム・オブ・スローンズ』『ラストクリスマス』のエミリア・クラークと「ベン・ハー」(2016)のジャック・ヒューストン。ヒューマントラストシネマ渋谷で開催の「未体験ゾーンの映画たち2020 延長戦」上映作品。
『エージェント・スミス』レビュー
邦題がかなり邪魔してしまっていることは言うまでもない。FBIとの取引きで内部情報提供者=スパイ=一時的なエージェントということで間違いではないのだが、エージェントと付くと『エージェント・ライアン』『エージェント・マロリー』のように、どうしてもアクションシーンを連想させてしまうし、明らかにチラシなどを見ても、アクション映画とミスリードさせようとしているが、今作は、普通にサスペンスとして、宣伝した方が本来の良さを引き出せるはずだ。
というのも、内容が意外にもしっかりしているからだ。今まで誰からも認められず生きてきて、成行きで結婚し、底辺の生活を送っていたスーザン・スミスがある事件をきっかけにFBIに弱みを握られることで、無罪になるために情報提供者になることを持ち掛けられられる、アンダーカバー映画なのだが、FBIのパットナムは仕事としてスーザンに従わせるために、優しい言葉をかけたりする。
しかし、その言葉や態度が、スーザンが人生の中で求めていた、自分を認めてくれた言葉そのものであったことから、経験したこともないような、乙女チックな恋心も芽生えていく
パットナムは仕事のため、スーザンは愛のために、すれ違った関係性の中で、パットナムも誘惑に負け、妻がいる身ながら肉体関係をもってしまう。
スーザンはパットナムのためにした行為が、仲間からは裏切り者として居場所がなくなったことで、よりパットナムへの執着が増すが、パットナムは事件が解決すると、日常に戻ろうとスーザンを避けるようになったことで更に事態は泥沼化していく。
全てを捨てて、愛を信じたスーザンが報われなず、更なるどん底へと落とされ、人生の負のサイクルからは逃れられないという、ある意味では、環境によって生まれてしまった、貧困の差を映し出したかのようなサスペンスであり、決してアクション映画的要素がある作品ではないのだ。
派手な作品ではないのだが、スーザンの心境や置かれた環境のことを考えて観ると、非常に心に突き刺さる映画であり、まだ全て観ていないが、個人的には「未体験ゾーンの映画たち2020 延長戦」の作品の中では、今のところ一番良い作品だった。
点数 78
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