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この映画語らせて!ズバッと評論!!『ソワレ』偶然出会った2人の先の見えない逃避行の末に待つものとは…

この映画語らせて!ズバッと評論!!『ソワレ』偶然出会った2人の先の見えない逃避行の末に待つものとは…

作品情報

『燦燦 さんさん』『わさび』の外山文治監督が、村上虹郎と芋生悠演じる若い男女の切ない逃避行を描いたドラマ。豊原功補、小泉今日子、外山監督らが立ち上げた映画制作会社・新世界合同会社の第1回プロデュース作品。俳優を目指して上京した翔太は、俳優では芽が出ずに今ではオレオレ詐欺に加担してなんとか食い扶持をつないでいる。ある夏、翔太は故郷の和歌山にある高齢者施設で演劇を教えることになり、その施設で働くタカラと出会う。数日後、祭りに誘うためにタカラの家を訪れた翔太が目撃したのは、刑務所帰りの父親から激しい暴行を受けるタカラの姿だった。とっさに止めに入る翔太、そして逃げ場のない現実に絶望してたたずむタカラ。翔太はタカラの手を取り、夏の街の中へと駆け出していく。

『ソワレ』レビュー

いろいろと荒削りな部分もあるし、詰め込むべきところと、詰め込まなくても良いところの判断が上手くいってない感じがどうしてもしてしまうが、総合的には悪くはない作品である。

前半は、何を意図しているのかよくわからないが、人間の老い、人生の終末の虚しさが所々に描かれる。

外山文治監督の短編『此の岸のこと』では、老々介護の悲惨な現実を描いていたが、初長編作品『燦燦 さんさん』も人間の老いを扱った作品だった。

監督のテーマとして「老い」というものがあるのは、ここまでしつこくやられると流石に分かるのだが、今回にいたっては、無理やり盛り込むこともないのではないだろうか。

シーンによっては、ドキュメンタリーのようなテイストで高齢者施設に暮らす老人たちの実情を描き出しているのだが、最終的に「老い」や「人生の最期」というテーマ性に向かっていくのかと思えば、後半は全く別物の映画のようで、前半の老人たちのくだりは何だったのだろうか。

今作、描くべき部分というのは、他に色々とあったと思うのだ。

例えば2人が逃亡した後の、周りの反応。なぜか警察しか反応していない。

あくまで2人の目線から描かれているため、多くを語らないし、実際に周りがどう反応しているかということは、逃亡している2人には、知るわけがないのだから、2人の目線だからといえば、納得はできるのだが、それであれば警察や梅干し農家夫婦の反応もいらないのではないだろうか。

一緒にいた劇団員や施設の人々、翔太の家族(少なくとも兄)の存在が急に途切れてしまうのが不自然でならない。

ちなみにガラスの割れた(予告にもあるシーン)と実際の部屋の場所が違う気がするし、もっと遠くに逃げればいいというツッコミ所は数多くあるのだが…

きっかけは何にせよ、現実から逃げ出したかった2人が互いを干渉し合わない、独特の距離感の中で、絆を深めていくという、不思議な雰囲気の先の見えない逃避行は見応えはあった。

誰かの記憶に残る役者になりたいという翔太が、最後に知る真実は、人間の絆や繋がりを深く心に残すようなものとなるだけに、もう少し細部を描くべき部分というのは、あったと思う。それは、バカ丁寧に2人のおかれている状況をセリフで説明するということではなく、外山文治監督ならできたはずだ。

映像センスや所々の演出技術も抜群で、ここまでアート的な人間ドラマを撮れる才能があるだけに、構成部分であと一歩という印象がどうしても残ってしまうが、次回作が期待できる監督であることは間違いない。

主演の2人の演技が独特で良いが、特に芋生悠の多くを語らずとも表情の変化で心情を表現する演技力は見事!!今作をきっかけに仕事増えると思う。

点数 80

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