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発掘!未公開映画研究所『ワナジャ』シンデレラストーリーかと思えば15歳の少女には過酷すぎる展開へと向かう

発掘!未公開映画研究所『ワナジャ』シンデレラストーリーかと思えば15歳の少女には過酷すぎる展開へと向かう

作品情報

インド・アーンドラプラデーシュの片田舎を舞台に、貧しい環境の中で酒浸りの父と暮らす15歳のワナジャは村の祭りで、南インドの伝統舞踊クチプディダンスを観たことと、占い師に「偉大ダンサーになる」と予言されたことで踊りに興味を持つ中、生活が困難となったワナジャは女領主ラーマデヴィの元で働くことになる。ラーマデヴィはクチプディの踊り子でもあったため、ワナジャは頼み込み、また領主もワナジャを気に入ったことから踊りのレッスンを受けることになる。ワナジャは、日々成長をしていくのだが、ある日、ラーマデヴィの息子シャカールがアメリカから帰国したことをきっかけに事態は思わぬ方向に向かっていく…。 2007年ベルリン国際映画祭では多数の賞に輝いたほか、様々なメディアで取り上げられたことで話題になった作品でもある。

発掘!未公開映画研究所とは?

宗教性の問題、出演者の知名度、お笑いの感覚の違い…などなどの理由によって、日本では公開にいたらない作品が多く存在する。アカデミー賞にノミネートされている作品でも未公開作品は多い。

それもそうだろう、逆にアメリカやフランスで日本の映画が何でも公開されていると言えばそんなわけもなく、全体的に見て1割にも満たないだろう。

日本はそんな中でも割と海外の作品を公開している珍しい国であって、そんな中でもやっぱり公開されない映画というのは山のように存在する。

「発掘!未公開映画研究所」はそんな映画を発掘していくというもので、その中でも更に知名度が低いものを扱っていくつもりだが、必ずしも良作ばかりではない、中には内容がひど過ぎて公開できなかったものもあるのでご注意を!!

今回紹介するのは『ワナジャ』

短評

今作は監督であるラージネーシュ・ドマルパリのコロンビア大学の論文が元となっており、映画プロデューサーである母親から借りた、わずか2000ドルを元手に制作された、学生による卒業制作映画である。

全ての出演者が役者ではなく、素人というのも驚きではある。確かに素人臭い感じはしないでもないが、その中にも味があったりして、一周して素人さをあまり感じさせないし、何と言っても主演のメーメサ・ブキャが素晴らしい。

単純にインド人女性独特の顔立ちで可愛らしい容姿という点もあるし、指を切って泣いていたり、その指の包帯に顔を描いたりする様子は、微笑ましくもあるが、何より彼女が凄いと思った点は、あどけない表情の中に見せる「強さ」が表現されているからなのだ。

その「強さ」が劇中でのワナジャの生活環境やカースト制における身分などと、リンクするからこそ、彼女の表情にはリアリティがあるのだ。

インドという国は、ミュージカル映画のようなキラキラした作品が多いと思っている人も多いかもしれないし、実際にそういった部分もあるのだが、都会や中心部から離れると、貧困に苦しみ、水や物資を配給に頼り、家はボロボロでネズミが歩き回るという、時代に取り残されたような場所が実際に存在している。

ヒンディー・ミディアム』の中でも描かれていたように、貧しい環境で育った子供たちは、満足のいく教育を受けることができず、親たちが富裕層で経済的にも社会的にも余裕のある人々ばかりが教育を受けられることで才能があっても、家庭環境のせいで才能が無駄になってしまう。

こういった貧富の差というのは、『21世紀の資本』の中でも語られていた様に、インドだけに限ったことではないが、その中でも誇張したような環境で生活をしているのがワナジャなのだ。映画自体はフィクションではあるが、ここに描かれるインドの貧しい環境の実態は、フェイクではない。

そんな中できっかけを掴み、夢であるダンサーになるため、日々特訓を重ね、実際にダンスシーンもメーメサのスタイルの良さから、スタイリッシュでカッコいいのだ。

敵視していたキャラクターたちもワナジャの努力に動かされ、歩み寄ってくるようになる。更には絵に描いた様な王子様キャラのシャカールが登場し、メーメサも照れ臭そうにシャカールを見つめる姿は、正にインド版シンデレラストーリーといった印象だ。

このままシンデレラストーリーとして突き進んでもらっても、別に悪い作品ではなかったし、この後に起こるメーメサの過酷過ぎる運命を思うと、そうしてもらいたかったとも思ってしまう。

貧困の中から這い上がり、ダンスを習うことで、夢を掴みかけた少女を待ち受けているのは、圧力、レイプ、妊娠、出産… シンデレラストーリーから、一気に現実の厳しさへと突き落とされる展開の数々は観ていて辛い部分もあるが、その中でも懸命に生きようとし、夢も諦めきれないワナジャの決断がまた思わぬ、独特な人間関係や雰囲気を生み出し、少し昼ドラのようでもあったりする。

後味が良い映画かというと決してそうではないが、どんな貧困の中でも、どんな過酷な状況の中でも、懸命に夢を掴もうとするワナジャの姿には心揺さぶられるだろう。

映画『ワナジャ』はAmazon プライムビデオで配信中!!

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