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THE映画紹介『フライトプラン』娘のために闘う母の行動は「正義」か「妄想」か

THE映画紹介『フライトプラン』娘のために闘う母の行動は「正義」か「妄想」か

THE映画紹介とは?

THE映画紹介とは…劇場公開中には観れなかったもの、公開中に観たんだけれども…レビューする前にリリースされてしまったもの、単純に旧作と言われるものを独自の偏見と趣味嗜好強めに紹介するもの。

アメリカ映画、インド映画、ドイツ映画、アジア映画、アニメ、ドキュメンタリー….なんでもあり!!

今回紹介するのは『フライトプラン』

作品情報

夫を不慮の事故で失い、その遺体を故郷のニューヨークに還すため、自身が設計した最新鋭旅客機に搭乗した飛行機設計士のカイルだが、フライト中に居眠りをした隙にひとり娘が姿を消してしまう。乗員や乗客は誰も娘を目撃していないというが……。監督は本作がハリウッド・デビューとなるドイツの俊英ロベルト・シュヴェンケ。撮影は名手ミヒャエル・ヴァルハウスの息子、フロリアン・ヴァルハウス。 出演は『羊たちの沈黙』『パニック・ルーム』のジョディ・フォスター、『ジャッキー ファーストレディ 最後の使命』『アイヒマンの後継者 ミルグラム博士の恐るべき告発』のピーター・サースガード、『サイレントヒル』『オデッセイ』のショーン・ビーン、『ママが泣いた日』『プール』のエリカ・クリステンセンなど

『フライトプラン』基本情報

2005年製作/98分/アメリカ
原題:Flightplan

監督: ロベルト・シュヴェンケ

出演 : ジョディ・フォスター、ショーン・ビーン、ピーター・サースガード、エリカ・クリステンセンほか

911テロで変わった航空業界

911テロ以降、大きく変わった航空業界事情を扱った作品でもある。

劇中で飛行機にただの乗客として乗っていただけのアラブ人が怪しいとジョディ・フォスター演じるカイルが詰め寄るシーンでは、それに便乗して回りの乗客もアラブ系だから犯人だと決めつけてしまう。

これは911テロ以降、アラブ系の人々に偏見の目が向けられていたアラブ系への差別問題を象徴しているのだ。

もともと人種への偏見や差別というのは、色濃くあるアメリカではあるが、テロ以降は、特にアラブ系の人たちは『バイス』などでも描かれていたように、ブッシュ政権が雑に扱っていたため、より間違った、不のイメージが生まれてしまい、暴行事件に発展することもたびたびあった。結果的に今作もミスリードとして扱われてはいて、イメージだけで決めつけるのはいけないというメッセージ性も含まれているのだ。

ただ、それであればアラブ系のキャラクターが結果的に何か事件解決につながる大きな役割を与えて、見せ場を作ってあげることが必要だったのではないだろうか。これでは、とばっちりを受けただけのイメージにしかならない。

航空保安官とは何か

今作には、ピーター・サースガード演じるカーソンという航空保安官が登場するが、そもそも航空保安官とは何なのか…

航空保安官というのは、911テロ以前は、全体で30名ほどしかいなかった小規模組織であったが、911テロの道具として飛行機が使用されたことによって、テロ以降はその必要性が問われ、数千人規模の組織にまで成長し、銃の携帯も許可されるようになったことで機内に銃を持ち込むことができる唯一の役職である。

テロ以前は、航空保安官がたまたま居合わせたなんて設定では、不自然だったが、テロ以降は、それがあたりまえのような状況となった。

結果的に911テロがあったことが背景にあることで成り立つ映画構造でもあり、直接的には描いていないながらも、いち早くテロ以降のアメリカの航空業界事情を扱った作品と言ってもいいだろう。

様々な意味でも分岐点的な作品として、ある意味では映画史に残る作品といっても良いのではないだろうか。

客室乗務員組合によるボイコット問題

今作では多くのCAが登場するが、ほとんどが無能のように扱われ、乗客への対応が悪かったり、最悪なことに犯罪に関与している者もいるという設定もあったりと、CAへの印象を悪くしかねないということで客室乗務員組合が今作を観ないように訴えかけるという事態にまで発展した。

ちなみに飛行機の中で観ることができる映画コンテンツの中でも公開を禁止したのだが、もともと飛行機が事故にあったりするパニックムービーは、機内では上映しない方針とされている。

皮肉なことに、その騒動により話題となったおかげで今作は2週連続でボックスオフィス1位となった。

短評

私は今作を初めて観たのは18歳のときに試写室だった。公開当時としては、ジョディ・フォスターが『パニック・ルーム』での娘を守るために戦う母親像が定着したことを逆手にとったような作品となっている。

『アメリ』で主演のオドレイ・トトゥが不思議系キャラクターという印象がついたことを逆手にとって、その印象をサスペンスに利用した『愛してる、愛してない』のように、俳優のもつイメージを逆手にとった、キャスティング術というのは、実際にあるのだ。

最終的な結末として、何か悲惨な事故や事件に巻き込まれて、トラウマとなったキャラクターの幻想だったという展開は、今でも使われているが、今回はその展開を利用して、実際に娘が連れ去られたのか、母親の妄想で既に娘は亡くなっていたのかという間を描いている。

娘を観たという記憶があいまいなCA達や回りの乗客、存在しない娘の座席指定券や荷物、ついには娘がすでに亡くなっているという病院の回答…追い打ちをかけるように有力となっていく主人公の妄想説

この映画で注目すべき点は、ショーン・ビーン演じる機長の目線だ。

主人公カイルは娘がいないからといって、機内を探し回り、航空設計士としての知識を使い、一般人立ち入り禁止のエリアにも入ろうとするし、入れない場所は破壊してまで入ろうとして、危険人物とされても仕方がない。

実際に娘の存在がなかったかのように消されてしまったとなれば、冷静ではいられなくなって当然ではあるが、それが本当のことかということを考えて客観的にみれば、カイルが妄想によって、暴走しているようにしか見えない。ここで機長の目線は正に映画を観ている側の視点と一致するのだ。

個人的な印象や固定概念ではなく、事実を確かめたうえで判断を下そうという機長の姿勢を更に利用した罠などが全体的に張り巡らされていて、観ている側もわからなくってきてしまうし、この映画が公開された時期というのは、2004年の『フォーガットン』のように、一般的なサスペンスとみせかけておいて、実は宇宙人によるアブダクト物という変化球作品が作られていた時期でもあったため、もしかして宇宙人の仕業なのかとも思わされる。

当時のSFサスペンスもの、心理サスペンスものを911テロ後のアメリカに反映させることで、社会派な作品に仕上げようとする一面もみられるが、中途半端なためあまり機能していないが、ジョディ・フォスターが飛行機内で暴れ回ることを乗客視点、乗務員視点だったら、どう映るのかと考えながら観ると、楽しめる作品である

ロベルト・シュヴェンケ 監督作品

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