作品情報
2003年にアメリカで発足したスキンヘッド集団「ヴィンランダーズ」の共同創設者ブライオン・ワイドナーの実話をもとに製作され、第91回アカデミー賞を受賞した短編映画を長編化した社会派ドラマ。白人至上主義者に育てられ、スキンヘッドに差別主義者の象徴ともいえる無数のタトゥーを入れたブライオン。シングルマザーのジュリーと出会ったブライオンは、これまでの憎悪と暴力に満ちた自身の悪行の数々を悔い、新たな人生を始めようと決意する。しかし、かつての同志たちは脱会を許さず、ブライオンに執拗な脅迫や暴力を浴びせてくる。そして彼らの暴力の矛先はジュリーたちにも向き始める。ブライオン役を『ジャンパー』『ロケットマン』のジェイミー・ベル、ジュリー役を短編版『SKIN』にも出演したダニエル・マクドナルドがそれぞれ演じる。イスラエル出身のユダヤ人監督ガイ・ナティーブが、短編に続きメガホンをとった。
『SKIN スキン』レビュー
白人至上主義者の更生を描く映画というと、代表的なところでは、1998年のエドワード・ノートン主演映画『アメリカン・ヒストリーX』があり、この中で刑務所で服役していたことによって更生していた。
直接的には描かれてはいないが、実は今作でもブライオンが拘留されていたときに、同じ様なことが起きていたのではないかと推測する。
シングルマザーのジュリーと出会うことで、唐突にコミュニティを抜け出そうとするような展開になっていくのだが、実はブライオンの葛藤は以前からあって、自分を離れた視点で見つめなおす時期と、ジュリーとの出会いがたまたま重なっただけで、愛は人を変えるといった言葉なんかもあるが、ただ単に恋したからといって、更生したわけでもないのだ。
拘留されていた時間の中で、自分を見つめなおしていたとしたら、被害者の母親に罵倒されても、言い返さなかった理由や、帰る途中の何か腑に落ちない表情をしていることにも納得がいく。
コミュニティというのは、仲間意識や師弟関係意識が強く、一見すると人格者や哲学的思想をもつ人物もいたりして、危ない集団ではあるが、 仲間同士の人間関係は良好、内々の関係性は異常さを感じさせないことが多いだけに、知らないうちに洗脳されて、偏った思想があたかも常識であるかのように認識させられてしまうのが怖いところ。
同じ方向に思想を向かわせるという点では、カルト宗教やヤクザ、マフィアなんかもそうと言えるだろうが、身近なところでは、社員を多く抱え、独自のマニュアルで動く大手企業も同じ構造といえるだろう。
例えば仕事が上手くいかない、会社の人間関係が上手くいかないからといって、自殺してしまう人もいたりするが、自殺するぐらいなら、いっそ放棄して逃げ出してしまえばいいのに、その考えができないということは、死に対しての概念やリミットまでもが支配されていることになるのだ。
今作でも、ブライオンが異常で過激な行動を起こす組織から抜け出そうとするだけなのに、あたかもブライオンが犯罪者で裏切者のような扱いを受ける。
集団行動、コミュニティの中の価値観や概念をもつ人に対して、いくら「あなたたちが間違っている」と言っても通じる相手ではないということが、終始突き刺さる映画であるといえるだろう。
人種差別なんて最低、悪魔なんて言ったところで、コミュニティにとっては正義。
ブラック・ライヴズ・マターが世界中で話題となる中で、これが逆に黒人によって白人が殺されたとしたらどうだろうか。人種差別撲滅と言いながら、特定の人種を取り上げて声を上げることは一周回って人種差別にもなり得る。
白人警官は、黒人を撃つかもしれないから、先に撃ってしまえなんてことになれば、これも人種差別。特に多くの人種が住むアメリカは、相手が別の人種だと背景に差別があると運動に発展してしまうことが多いが、根本的な部分として、私たち人間がするべきことは、人種部分に限定して、どうこう言うのではなく、人に暴力をふるわないで、人を殺さないでと叫ぶべきなのだ。負のサイクルでしかないように思えてしまうのは私だけだろうか。
少し話が脱線してしまったが、そんな偏った概念で作り出された輪から逃げ出そうとする展開は良いのだが、輪の中の人間関係は全員でなかったとしても、長い間、コミュニティで生活していて、歪んではいたかもしれないが、良好な相手も何人かはいたと思うだけに、敵対してしまう結果になってしまう間の葛藤が少し雑に感じてしまうのが難点だといえるだろう。
人間関係の構築によって、抜け出せないサイクルを作っていた思われるだけに、そこがゆるいのは、どうだろうか。
点数 78点
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