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THE映画紹介『プレイヤー 死の祈り』ケイシー・レモンズ初監督作品にして「記憶」の曖昧さで物語をコーティングした斬新作!!

THE映画紹介『プレイヤー 死の祈り』ケイシー・レモンズ初監督作品にして「記憶」の曖昧さで物語をコーティングした斬新作!!

THE映画紹介とは?

THE映画紹介とは…劇場公開中には観れなかったもの、公開中に観たんだけれども…レビューする前にリリースされてしまったもの、単純に旧作と言われるものを独自の偏見と趣味嗜好強めに紹介するもの。

アメリカ映画、インド映画、ドイツ映画、アジア映画、アニメ、ドキュメンタリー….なんでもあり!!

今回紹介するのは『プレイヤー/死の祈り』

作品情報

1960年代のルイジアナ州の片田舎を舞台に繰り広げられる人間模様が多感な少女イヴの純粋な目を通して描かれる。多感な少女イヴはある日、医師で近所からも信頼されている父親の秘密を目撃してしまう…。『ハリエット』『クリスマスの贈り物』など黒人社会を描いた作品を多く手掛けるケイシー・レモンズ長編映画初監督作品でもあり、主人公イヴを演じるのは『ハーレイ・クインの華麗なる覚醒 Birds of Prey』の中でブラックキャナリーを演じたジャーニー・スモレット=ベル。共演に『ミスター・ガラス』『キャプテン・マーベル』のサミュエル・L・ジャクソン、『侵入する男』『シャザム!』のミーガン・グッドなど。

『プレイヤー/死の祈り 』基本情報

1997年製作/アメリカ
原題:Eve’s Bayou

監督: ケイシー・レモンズ

出演 : サミュエル・L・ジャクソン、ミーガン・グッド、 ジャーニー・スモレット=ベル ほか

短評

ハリエット』『クリスマスの贈り物』のケイシー・レモンズによる初長編監督作品である。奴隷問題やルーツ、信仰心などといった黒人社会を切り取った作家性が特徴的であるケイシー・レモンズだが、初監督作品からもその傾向というのは感じとることはできるし、今作自体が奴隷黒人をテーマとして扱った作品ではないし、そのこと自体が物語に深く関わってくるかというと、違うのだが、冒頭でメインとして描かれる大家族は、奴隷黒人とその奴隷主である将軍との間で作られた家族がルーツとしてあることを提示される。

祖先は将軍のもとに奴隷として仕えていたが、ある生死をさまようような病気になった際に祖先の看病によって、奇跡的に生還したことがきっかけで、解放されて結ばれたことになっているが、これは身分が違ってはいるが『ハリエット』におけるギデオンとの関係性に少し似ている気がするし、奴隷主全てが悪であったということは言っていない。黒人だろうが白人だろうが、あくまで個人個人の人間として、歴史的背景を織り交ぜてはいるのだが、軸として描くのは、やはり人間力である。

スパイク・リー監督の『スクール・デイズ』に女優として出演していたケイシー・レモンズだが黒人社会の切り取り方としては、スパイク・リーに影響されている可能性は高い。

他の作品では感じられた「ミュージカル好き」感は今回はなかったが、今作を観て感じたのは、実に繊細な視点もある監督であるということだ。

冒頭で「わたしは10歳の時、父を殺した」と語られ、同時に「記憶とは曖昧」とも語られる。

冒頭では、この言葉の意味がよくわからないのだが、重要なのは、起きた出来事の目線が10歳の少女ということだ。

つまり、この映画内で描かれる出来事すべてが、子供時代の曖昧な記憶の中で構成されている物語であるということ。映画内で語られていること、起きていることが全て現実かはわからないという意味なのだ。

医師としても人間としても尊敬されている、サミュエル・L・ジャクソンが演じる父ルイスの浮気現場をたまたま目撃してしまったイヴ。父に「ふざけていただけだ」言いくるめられ、納得がいかない部分もありつつも、家族を大切にしていて優しい父が好きなイヴは自分の中でなかったことにしようとするが、のちにイヴの実の姉にも手を出して近親相姦寸前まで行きそうになったことがあったことを姉から告白される。

「とんだ最低人間だ!!」と思ったイヴは、父を殺そうと決心する。

親戚に霊能力による予言ができる叔母のもとに度々、訪れることで、家系には何人か霊能力を受け継ぐものがおり、イヴもその能力があることがわかってきて、度々、ヴィジョンのようなものも見えるようになる。

そんな中で出会った占い師に聞いた、人を殺す呪いを実行したものの、呪いなんかで実際に死んでしまうなんて、そこまで信じていなかったイヴだが、備わった能力のヴィジョンによって、父の死んでしまった姿がチラつき、結果的に父は死んでしまう。

その後にイヴは、父の手紙を見つけ、そこには姉との近親相姦未遂は、姉が先に手を出してきたことで、娘なのに何をするんだ!と思わず払い除けたことで姉が怒り、事実を捻じ曲げたことをイヴに伝えていたことが判明する。

しかし、イヴは姉を責めることはしないで、抱きしめる。

話を冒頭の部分に戻そう。これはあくまで10歳の少女の視点であり、語っているのは、おそらく大人になったイヴだ。

大人になって10歳の頃の記憶を語るときに、人はどれほど詳細に話すことができるだろうか…

記憶とは曖昧という部分はここを指しており、今作で描かれていたことが全て10歳の頃の記憶によるもので、実は真実ではない可能性もあるということだ。

例えば、父の浮気現場を見てしまったこと。これも実はイヴの思い込みの可能性がある。姉の言葉を信じて、父を呪いによって殺してしまったが、それを正当化するために実は父は最低な人間であったことを思い込む必要性があったため、記憶が都合よく、無意識のうちに改ざんされているのかもしれない。

父の手紙や占い師の存在も真実かはわからない。そもそも父を殺したという呪い自体も、たまたまの偶然で実は何の関係もないのかもしれない。

都合の良いこと、悪いことがそれぞれ記憶の中で変化していってしまっており、何が真実で何が無意識に作られた記憶なのかが、わからなくなってしまっている。

実は冒頭で「この物語は嘘かもしれない」という爆弾を落としている。

この映画の物語自体に評論してしまうと霊能力?呪い?最低な父?という部分に意識が奪われてしまうのだが、これは完全にミスリード。

10歳の頃の記憶を大人が語るという、「不正確な記憶の物語」というパッケージとして観なければいけない作品なのだ。

今作は知名度のあまりない作品だが、ケイシー・レモンズの今後描きたかったテーマなどを暗示されている部分もあったり、映画の構成自体にトリックがあったりと、初監督作品ながら才能を感じられる作品であることは間違いない。

ジャーニー・スモレット=ベルやミーガン・グッドなど、今活躍している実力派若手黒人女優が子役時代に出演していたという点でも、俳優をみる目も確かということだ。

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