作品情報
1980年代のイギリスを舞台に、パキスタン移民の少年がブルース・スプリングスティーンの音楽に影響を受けながら成長していく姿を描いた青春音楽ドラマ。87年、イギリスの田舎町ルートン。音楽好きなパキスタン系の高校生ジャベドは、閉鎖的な町の中で受ける人種差別や、保守的な親から価値観を押し付けられることに鬱屈とした思いを抱えていた。しかしある日、ブルース・スプリングスティーンの音楽を知ったことをきっかけに、彼の人生は変わり始める。出演は『キャプテン・アメリカ』『プーと大人になった僕』のヘイリー・アトウェル、『1917 命をかけた伝令』『トレイン・ミッション』のディーン=チャールズ・チャップマン。監督は『ベッカムに恋して』『ジョージアの日記 ゆーうつでキラキラな毎日』のグリンダ・チャーダ。
『カセットテープ・ダイアリーズ』レビュー
またもレビューするのに2か月もかかってしまった…年間500本以上観ていると、実はまだまだレビューできていない新作が大量にあったりして、『スキャンダル』なんかは、そうこうしているうちにDVDリリースされてしまった…
だから、ちょっと急ぎ足に、新作映画から少しずつ片付けていこうと思っている…というのは、個人的な事情だ。
近年、『 IT イット “それ”が見えたら、終わり。』『サマー・オブ・84』『ストレンジャー・シングス』 『ヴァレー・ガール』とよく舞台になったり、題材にされることが多くなった80年代を扱った作品であり、その中でブルース・スプリングスティーンを中心とした80年代ミュージックを散りばめた青春映画ではあるが、今作が良い点は、主人公がミュージシャンではないということである。
大物歌手に憧れて、ミュージシャンに憧れてミュージシャンを目指するというのであれば、ありきたりな作品になってしまうし、監督のグリンダ・チャーダによる2002年の映画『ベッカムに恋して』という映画の焼きまわしになってしまう。
『ベッカムに恋して』という映画は、フジテレビ系ドラマ『東京ラブ・シネマ』の中でも取り上げられたことで、日本でも少し話題となった作品。デヴィッド・ベッカムが好きな女子フットボールクラブの少女が抱える人種的な問題などを扱っていた作品であり、今作での人種の壁と立ち向かう主人公の境遇とは共通する部分はあるものの、あくまで『ベッカムに恋して』は進む方向がフットボール=フットボールと同じものとなっている。
しかし、今作では主人公はミュージシャンになろうとしない、なりたいとも思わない。音楽を聴いたことでの衝撃やインスピレーションを自分の得意分野である文章というかたちで表そうとするのだ。
音楽がもたらす影響というのは、音楽=音楽の様に限定した方向性にのみ機能するのではなく、音楽=社会、音楽=人種といった様に様々な方向に機能し、勇気を与えてくれるものだということ、 つまり「音楽のもつ力」というを改めて噛みしめるような映画に仕上がっているのだ。
音楽がカウンター・カルチャーとして機能していた時代ではなく、音楽は音楽でしょという少し冷めた目線が入った、80年代を舞台にしているという点も上手くコントラストとしての機能を果たしている。
ブルース・スプリングスティーンが好きであれば、聖地巡礼もあったりと、単純に音楽映画としても楽しめる作品となっているが、個人的にブルース・スプリングスティーンは好きでも嫌いでもない立場から観ても、「音楽のもつ力」の本質というものを改めて描き出した作品といえるだろう。
点数 80点
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